【Handbooks in Economicsシリーズとの出会い】
―― 先生と本シリーズの出会いはいつ頃だったのでしょうか?
最初に本書を手に取ったのは、アメリカに留学した時だったと思います。アメリカではハンドブックシリーズは必修の教科書のような存在でした。読むのが当然でしたし、授業でハンドブックを読んでいないような発言をすると怒られたものです。学生にとっては高価な本だったので図書館でコピーして使ったのを覚えています。
―― 実際にどのタイトルをご利用いただいていますか?
これは今でもそうですが、ミクロやマクロ、計量経済学等の理論に関しては、大学院用の上級テキストはたくさんありますが、他の分野、労働経済学や産業組織論等に関しては、これは、という良い大学院用の教科書はほとんどありません。そうした中で刊行されている、様々な分野のHandbookシリーズは、大学院生には欠かせない文献だと思います。特に記憶に残っているのは、Labor EconomicsのVol.1とVol.2でして、今にもつながるとても優れた先駆的研究を多くカバーしており、留学当時は暗記するほど読みました。どのHandbookも、一つの章が60~70ページほどで、程よいサイズで上手くまとまっています。これを読んでからより専門的な次の資料に行くのが定石です。また、マクロ経済学のVol.1Bは自分も活用しましたし、自分の教える学生にも何度も貸し出しているうちに表紙が無くなってしまったほどです。沢山出版されているマクロ経済学の教科書よりも、扱っているテーマがさらに広く、また深く説明されているので、マクロ経済学の興味のある大学院生には、ぜひ、全章に目を通してほしいと思います。
【博士課程に進む学生に必読の書。最近の動向をとらえた鳥瞰図】
―― 論文や授業など、どのようなタイミングでご利用いただいているでしょうか?
自分の研究分野においては教科書のような存在ですね。博士課程に進む学生には必読の文献だと思います。学生時代に読み込み、基礎を作るには最適なタイトルだと思います。
研究者になると自分の研究においては最先端の研究を知るためにJournalや各研究者のLecture Noteなどを参考にすることが多くなりますが、自分の専門以外の分野について知りたいときには本書をまず参照します。辞書のように使っていますね。最近の動向を捉え、先行研究を効率よく鳥瞰することができますので便利です。
また、ゼミ生と研究テーマについて話をするときにも使っています。学生にとっては最初は難しいかもしれませんが、いろいろな視点が入っていますので、興味を持てる研究テーマを見つけるとっかかりにもなると思います。
―― 本書のどのような点が魅力的でしょうか?
なんといってもその分野における第一人者が編集を務めている点です。そのため学術的な信頼性が高く、多くの研究者に支持されています。また、編者の意見にのみ偏らず、異なる立場の意見もきちんと書かれているのは重要なポイントだと思います。いろいろな視点が入っていることによって、その分野を包括的にとらえることができます。
また、巻数を重ねているタイトルでは、新巻で最新の研究動向にアップデートされている部分もあり、時代時代の流行をきちんと押さえている点も評価できるポイントですね。一方で、古いタイトルでも現在に通じる内容が書かれていますので、今でも見返すところがたくさんあります。
―― 本シリーズやご利用タイトルに並ぶ必備書があれば教えていただけますか?
Blackwell社のBlackwell Handbooks in Economicsシリーズから刊行されたHandbook of Applied Econometrics: Macroeconomics(1995年刊行 / 978-1-55786-208-2 / 絶版)は良いタイトルでこれも良く使いました。ただ、残念ながらこのシリーズはミクロ経済学が出た後、続きが出ませんでした。他にも単行本で良い本はたくさん出ていますが、シリーズとしては本シリーズに並ぶタイトルは無いかもしれませんね。
―― 近年、紙の本ではなくebookがどんどん広がっていますが、先生はebookは活用されていますか?また研究に置いて紙の本と差はどんなところにあるとお考えでしょうか?
私もタブレットは持っていて、ebookも活用しています。ebookで良いのはやはり場所を取らない、持ち運びが便利、という点だと思います。タブレットひとつで様々な本を持ち運ぶことができますので、移動時間などを有効に使えます。また、検索機能も便利なので調べ物をするときには、ebookは適していると思います。
一方で、じっくり読むときには紙の本の方が適していると思いますね。今はebookでも線を引けたりしますが、学ぶ・頭に入れる、という時にはやはり紙の方が向いていると思います。また、紙はランダムな出会いがあるのがいい点ではないでしょうか?ebookでは探したいものをすぐに見つけることができますが、紙の本はパラパラめくる中で自分のテーマとは別の新たな興味を引くテーマと出会う機会にもなり、それが新たな研究の糸口になることもあると思います。
また、紙の本だとゼミ生に貸し出しできるのもいいですね。今の学生はタブレットのみならずiPhoneでノートテイクしている子もいるので、今後変わっていくとは思いますが、ebookと紙の本とそれぞれを目的に応じて、使える環境が整えられると良いと思います。
【研究分野への出発点として最適】
―― 今後期待するテーマや内容はありますか?
マクロ経済学は1999年に第1巻が出てから続きが出ていないので、第2巻が出るのを期待しています。動きが激しくまとめるのが難しい分野では有りますが、ニーズは高いと思います。
医療経済学も最近人気のテーマですね。学生でも研究テーマに選ぶ人が増えていますので、こういったテーマも喜ばれるのではないでしょうか。
最近の私の研究テーマの一つでもあるHousehold Economicsについてのタイトルが出れば嬉しいですね。家計内の経済意思決定についての研究で、夫婦間で収入の差が、家計内の消費の意思決定にどのように影響を及ぼしているかについて研究しています。最近は女性の研究者・学生も増えていますが、それも相まってこうした研究分野における注目も高まっていると思います。
―― 学生や若手研究者の方へ、本シリーズの推薦メッセージをいただければと思います。
お薦めするまでもなく必須と言えるタイトルですが、自分の研究分野への出発点として最適な文献です。経済学の領域で研究を進めていく上では、ハンドブック上での議論を踏まえた上で、意見を述べるべきだと思いますので、学生の皆さんは自分の研究分野は勿論、興味のあるテーマは目を通しておくことをお薦めします。
阿部先生、どうもありがとうございました。