内容
美貌と才芸に恵まれた貴公子・狭衣の君の濃いの憂愁を描く王朝物語
鎌倉時代初期に書かれた我が国最初の文芸評論書『無名草子』に、 『狭衣』こそ『源氏』に次ぎては世覚えはべれ。 と書かれてあります。『狭衣物語』は『源氏物語』に次いで世間の評判が高い、というのです。空前絶後の傑作『源氏物語』と肩を並べるのは無理としても、かつて『狭衣物語』は大変な人気をかちえていたわけです。 じっさい、『狭衣物語』を手に取ると、和歌をちりばめた洗練された文章と、いきいきとした人物描写に圧倒されます。主人公・狭衣の君をとりまく幾多の女性たちは個性豊かに描き分けられ、なるほどそれで読者である宮廷の女房たちが我がことのように読み競ったかと納得できる魅力にあふれています。 本書は美貌と才芸に恵まれた貴公子・狭衣の恋愛遍歴ですが、現代の読者には、彼をめぐってさまざまな人生を送る女性たちの姿こそがアッピールすることでしょう。十一世紀当時に対する私たちの予想を裏切って、女性たちが権力者である男性に従属することなく、自己のプライドを人生の選択基準にしているのを発見できるからです。 本書には巻一~二を収め、付録に『源氏狭衣百番歌合』を掲載しました。