内容
金融庁に、「霞が関のジローラモ」と呼ばれた男がいた。
カラフルなワイシャツに、足元はデッキシューズ。ジムで鍛え上げた上半身にスポーティな短髪で、ひときわ目立つ存在だった。
佐々木清隆――
開成高校、東大法学部を卒業して1983年、絶頂期の大蔵省に入省したエリート官僚だが、「保守本流」の道は歩まなかった。
入省直後から「大蔵省の文化」に疑問を持ちはじめ、二度にわたるパリのOECD(経済協力開発機構)勤務で各国の金融政策担当者や中央銀行職員と交流を深めた。
帰国後、金融検査部に配属され、そのまま新たに発足した金融監督庁に移る。
一方、「保守本流」の大蔵省は、バブル崩壊後不祥事とスキャンダルにまみれ、組織改革を余儀なくされた。時代はもはや旧来型の「護送船団」を必要とせず、金融当局は続発する金融事件への対処を迫られた。
「異能の官僚」が活躍する舞台が、そこにあった。
佐々木は独特のセンスを発揮して、次々に発生する金融事件に対処していくことになる。
クレディ・スイスによる「飛ばし」。
クレスベール証券のプリンストン債。
株式市場のハイエナと呼ばれる企業群。
カネボウの巨額粉飾事件と、それを見過ごした中央青山監査法人。
ライブドア、村上ファンド事件。
多額の企業年金を運用失敗で溶かしたAIJ投資顧問。
日本を代表する大企業・東芝の不公正ファイナンス。
そして仮想通貨(暗号資産)の流出――。
叩いても、叩いても、規制の枠の外側から次々沁み出てくる金融不正。
しかもそれに対処する金融庁、証券取引等監視委員会など金融当局は法整備も人員の補充も追いつかず、検察の「秘密主義」に振り回されたうえ、縦割り組織の弊害も抱えていた。
まるで銭形警部のように、「最新の金融犯罪」を追いつづけた。
底なし沼のような腐食の連鎖に立ち向かった金融官僚の、挑戦の20年。