内容
珍談奇談・人間模様を巧みな構成と語り口でつづる、西鶴の傑作短編集。
好色物で人気を得た西鶴は、一躍京都・大阪・江戸三都を席巻する流行作家です。ここに収録したのは、その脂ののった時期の短編集で、三作合わせて九五話。 西鶴の鋭い人間観察と豊かな表現は、それぞれの登場人物を躍動させています。とりわけ自己主張する女性は、倫理的には否定されるにもかかわらず、今に思えば魅力的ともいえます。家来との仲を糾弾され自害を迫られても、恋は不義にあらず、死ぬ理由がない、とつっぱねる武家の姫。早死にした姉たちを弔えという勧めにも知らん顔、尼になるくらいなら、と家出してしまう末娘。――彼女たちの自我に喝采を送るのも、読み手に許された自由です。 「男色」と聞くと、一瞬ひるみますけれども、近世も初めの頃は、アブノーマルでも何でもなく、女色・男色どちらも当然、という健全な(?)時代であることを念頭におけば、ラブ・ストーリーとして読めなくもありません。アブナイ陰の世界でなく、貞節・嫉妬・三角関係・心中といった定番のテーマが堂々とくりひろげられます。 まあ、週刊誌でも読むつもりで本を開いてください。狐狸・天狗から人形まで登場する怪異譚、レイプあり乱交ありの女色男色、殺人・心中・敵討ち、ジャーナリズムにのった西鶴の、旺盛なサービス精神は読む者を飽きさせません。