コレクション日本歌人選<016> 香川景樹
岡本 聡 著
内容
目次
01 大比叡や小比叡のおくのさざなみの比良の高根ぞ霞みそめたる 02 惜しみても鳴くとはすれど鶯の声のひまより散る桜かな 03 闇よりもあやなきものは梅の花見る見る月にまがふなりけり 04 柴の戸に鳴きくらしたる鶯の花のねぐらも月やさすらむ 05 大堰河かへらぬ水に影見えて今年もさける山桜かな 06 池水の底に映ろふ影の上にちりてかさなる山桜かな 07 この里は花散りたりと飛ぶ蝶の急ぐかたにも風や吹くらむ 08 筏おろす清滝河のたきつ瀬に散りてながるる山吹の花 09 なれがたく夏の衣やおもふらむ人の心はうらもこそあれ 10 武蔵野は青人草も夏深し今咲く御代の花の影見む 11 夜河すとたく篝火は後の世の影水底に映るなりけり 12 陽炎のもゆる夏野の沢水に夜たつ影は蛍なりけり 13 夏川の水隈隠れの乱れ藻に夜咲く花は蛍なりけり 14 風わたる水の沢瀉影見えて山沢隠れ飛ぶ蛍かな 15 打ちかはす雁の羽かぜに雲消えて照りこそまされ秋の夜の月 16 蝶の飛び花の散るにもまがひけり雪の心は春にやあるらむ 17 埋火の匂ふあたりは長閑にて昔がたりも春めきにけり 18 埋火の外に心はなけれどもむかへば見ゆる白鳥の山 19 ゆけどゆけど限りなきまで面白し小松が原のおぼろ月夜は 20 昨日今日花のもとにて暮らすこそわが世の春の日数なりけれ 21 酔ひふして我ともしらぬ手枕に夢の胡蝶とちる桜かな 22 蝶よ蝶よ花といふ花の咲くかぎり汝がいたらざる所なきかな 23 白樫の瑞枝動かす朝風に昨日の春の夢はさめにき 24 水鳥の鴨の河原の大すずみ今宵よりとや月も照るらむ 25 見わたせば神も鳴門の夕立に雲たちめぐる淡路島山 26 わが宿にせき入れておとす遣水の流れに枕すべき比かな 27 夕日さす浅茅が原に乱れけり薄紅の秋のかげろふ 28 朝づく日匂へる空の月見れば消えたる影もある世なりけり 29 富士の嶺を木間木間にかへり見て松のかげふむ浮島が原 30 敷島の歌のあらす田荒れにけりあらすきかへせ歌の荒〓(木+巣)田 31 嵯峨山の松も君にし問はれずは誰にかたらむ千世の古事 32 親しきは亡きがあまたに成りぬれど惜しとは君を思ひけるかな 33 おのが見ぬ花ほととぎす月雪を四の緒にこそ引きうつしけれ 34 かへりみよこれも昔は花薄まねきし袖の名残なりけり 35 古りにける池の心はしらねども今も聞ゆる水の音かな 36 水底に沈める月の影見ればなほ大空のものにざりける 37 濡らさじとくれしこれすら煩はし受けらるべしや天の滴り 38 世の中にあはぬ調べはさもあらばあれ心にかよふ峰の松風 39 かの国の花に宿りて思ふらむこの世は蝶の春の夜の夢 40 馬くらべ追ひすがひてぞ過ぎにける月日の逝くもかくこそありけれ 41 人の世は浪のうき藻に咲く花のただよふほどぞ盛りなりける 42 嬉しさを包みかねたる袂よりかなしき露のなどこぼるらむ 43 花とのみ今朝降る雪のあざむきてまだしき梅を折らせつるかな 44 花見むと今日うち群れて乗る駒も大空の青春の日のかげ 45 菜花に蝶もたはれてねぶるらん猫間の里の春の夕ぐれ 46 紙屋川おぼろ月夜の薄墨にすきかへしたる浪の色かな 47 世の中はおぼろ月夜をかざしにて花の姿になりにけるかな 48 双六の市場はいかに騒げとか降りこぼしける夕立の雨 49 闇ながら晴れたる空のむら時雨星の降るかと疑はれつつ 歌人略伝 略年譜 解説「桂園派成立の背景 香川景樹」(岡本聡) 読書案内 【付録エッセイ】景樹の和歌論(林達也)
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