コレクション日本歌人選<019> 塚本邦雄
島内 景二 著
内容
目次
01 初戀の木陰うつろふねがはくは死より眞靑にいのちきらめけ 02 錐・蠍・旱・雁・掏摸・檻・囮・森・橇・二人・鎖・百合・塵 03 サッカーの制吒迦童子火のにほひ矜羯羅童子雪のかをりよ 04 詩歌變ともいふべき豫感夜の秋の水中に水奔るを視たり 05 革命歌作詞家に凭りかかられてすこしづつ液化してゆくピアノ 06 燻製卵はるけき火事の香にみちて母がわれ生みたること恕す 07 死に死に死に死にてをはりの明るまむ靑鱚の胎てのひらに透く 08 われがもつとも惡むものわれ、鹽壺の匙があぢさゐ色に腐れる 09 殺戮の果てし野にとり遺されしオルガンがひとり奏でる雅歌を 10 聖母像ばかりならべてある美術館の出口につづく火藥庫 11 帝王のかく閑かなる怒りもて割く新月の香のたちばなを 12 紫陽花のかなたなる血の調理臺 こよひ食人のたのしみあらむ 13 桔梗苦しこのにがみもて滿たしめむ男の世界全く昏れたり 14 夏もよしつねならぬ身と人はいへたかねに顯ちていかに花月は 15 涙 そそぐ 木の夕影に なびく藤きみは 寂しき死を ねむる 蝶 16 玩具凾のハーモニカにも人生と呼ぶ獨房の二十四の窓 17 一月十日 藍色に睛れヴェルレーヌの埋葬費用九百フラン 18 桐に藤いづれむらさきふかければきみに逢ふ日の狩衣は白 19 昔、男ありけり風の中の蓼ひとよりもかなしみと契りつ 20 おおはるかなる沖には雪のふるものを胡椒こぼれしあかときの皿 21 掌の釘の孔もてみづからをイエスは支ふ 風の雁來紅 22 ほほゑみに肖てはるかなれ霜月の火事のなかなるピアノ一臺 23 ディヌ・リパッティ紺靑の樂句斷つ 死ははじめ空間のさざなみ 24 世界の黄昏をわがたそがれとしてカルズーの繪の針の帆柱 25 馬を洗はば馬のたましひ冱ゆるまで人戀はば人あやむるこころ 26 突風に生卵割れ、かつてかく撃ちぬかれたる兵士の眼 27 にくしみに支へられたるわが生に暗綠の骨の夏薔薇の幹 28 夢の沖に鶴立ちまよふ ことばとはいのちをおもひ出づるよすが 29 櫻桃にひかる夕べの雨かつて火の海たりし街よ未來も 30 ただ一燈それさへ暗きふるさとの夜夜をまもりて母老いたまふ 31 はつなつのゆふべひたひを光らせて保險屋が遠き死を賣りにくる 32 蕗煮つめたましひの贄つくる妻、婚姻ののち千一夜經つ 33 子を生しし非業のはての夕映えに草食獸の父の齒白き 34 さらば百合若 驟雨ののちをやすらへる昧爽の咽喉ゆふぐれの腋 35 獻身のきみに殉じて寢ねざりしそのあかつきの眼中の血 36 玲瓏と冬の虹たつ 昨日まひる刎頸の友が咽喉を切られし 37 ロミオ洋品店春服の靑年像下半身無し***さらば靑春 38 建つるなら不忠魂碑を百あまりくれなゐの朴ひらく峠に 39 炎天ひややかにしづまりつ終の日はかならず紐育にも〓(記号)爆 40 日本脱出したし 皇帝ペンギンも皇帝ペンギン飼育係りも 41 おほきみはいかづちのうへわたくしの舌の上には烏賊のしほから 42 モネの僞「睡蓮」のうしろがぼくんちの後架ですそこをのいてください 43 歌すつる一事に懸けて晩秋のある夜うすくれなゐのいかづち 44 罌粟枯るるきりぎしのやみ綺語驅つていかなる生を寫さむとせし 45 七月の眞晝なれども紺靑のコモ湖こころのふかきさざなみ 46 右大臣は常に悲しく「眼中の血」の菅家「ちしほのまふり」實朝 47 イエスは架りわれはうちふす死のきはを天靑金に桃咲きみてり 48 枇杷の汁股間にしたたれるものをわれのみは老いざらむ老いざらむ 49 皐月待つことは水無月待ちかぬる皐月まちゐし若者の信念 50 醫師は安樂死を語れども逆光の自轉車屋の宙吊りの自轉車 歌人略伝 年譜 解説「前衛短歌の巨匠塚本邦雄」(島内景二) 読書案内 【付録エッセイ】ドードー鳥は悪の案内人--『塚本邦雄歌集』(寺山修司)
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