コレクション日本歌人選<029> 二条為氏と為世
日比野 浩信 著
内容
目次
為氏 01 人問はば見ずとや言はむ玉津島かすむ入り江の春のあけぼの 02 乙女子がかざしの桜咲きにけり袖振山にかかる白雲 03 春の夜の霞の間より山の端をほのかに見せて出づる月影 04 数ふれば春はいく日もなかりけりあだなる花の移りやすさは 05 月だにも心つくさぬ山の端に待つ宵過ぐるほととぎすかな 06 牡鹿待つ猟男の火串ほのみえてよそに明けゆく端山しげ山 07 今よりの衣雁がね秋風に誰が夜寒とか鳴きて来ぬらむ 08 常盤山変はる梢は見えねども月こそ秋の色に出でけれ 09 秋ごとになぐさめ難き月ぞとは馴れても知るや姥捨の山 10 時雨もて織るてふ秋の唐錦裁ち重ねたる衣手の森 11 暮れかかる夕べの空に雲さえて山の端ばかりふれる白雪 12 さゆる夜の嵐の風に降りそめて明くる雲間に積もる白雪 13 冬の夜は霜を重ねてかささぎの渡せる橋に氷る月影 14 君がすむ同じ雲居の月なれば空にかはらぬ万代の影 15 さしのぼる光につけて三笠山影なびくべき末ぞみえける 16 今よりの涙の果てよいかならむ恋ひそむるだに袖は濡れけり 17 知られじな心ひとつに嘆くとも言はではみゆる思ひならねば 18 言はで思ふ心一つの頼みこそ知られぬ中の命なりけれ 19 ねぬなはの寝ぬ名はかけてつらさのみ益田の池の自らぞ憂き 20 ありし世を恋ふる現かかひなきに夢になさばやまたも見ゆやと 21 いと早も移ろひぬるか秋萩の下葉の露のあだし心は 22 春日山祈りし末の代々かけて昔変はらぬ松の藤波 為世 01 今朝よりや春は来ぬらむ新玉の年立ちかへり霞む空かな 02 立ち渡る霞に浪はうづもれて磯辺の松に残る浦風 03 煙さへ霞添へけり難波人蘆火焚くやの春のあけぼの 04 行く先の雲は桜にあらはれて越えつる峰の花ぞ霞める 05 つれなくて残るならひを暮れてゆく春に教へよ有明の月 06 ほととぎす一声鳴きて片岡の森の梢を今ぞ過ぐなる 07 鵜飼舟瀬々さしのぼる白波にうつりて下る篝火のかげ 08 風寒み誰か起きゐて浅芽生の露の宿りに衣打つらむ 09 まれにだに逢はずはなにを七夕の年月ながき玉の緒にせむ 10 むら雲の浮きて空ゆく山風に木の葉残らず降る時雨かな 11 空はなほまだ夜ふかくて降り積もる雪の光に白む山の端 12 風さゆる宇治の網代木瀬を早み氷も波も砕けてぞ寄る 13 堰かでただ心にのみぞ忍ばまし袖の涙のなき世なりせば 14 今はまた飽かず頼めし影も見ずそことも知らぬ山の井の水 15 言の葉はつらきあまりに枯れぬとも冬野の真葛なほや恨みむ 16 数ならぬゆゑと思へば立ち返り人の咎にも身をぞ恨むる 17 なほざりの契りばかりに長らへてはかなく何を頼む命ぞ 18 この里は山陰なればほかよりも暮れ果てて聞く入相の鐘 19 をのづからうき身忘るるあらましにあり慰めて世をや過ぐさむ 20 今ぞ知る昔にかへる我が道のまことを神も守りけりとは 歌人略伝 略年譜 解説「伝統の継承者・為氏と為世--次世代への架け橋--」(日比野浩信) 読書案内 【付録エッセイ】春・藤原為氏(丸谷才一)
カート
カートに商品は入っていません。