コレクション日本歌人選<051> 源実朝
三木 麻子 著
内容
目次
01 けさ見れば山もかすみて久方の天の原より春は来にけり 02 この寝ぬる朝明の風にかをるなり軒端の梅の春の初花 03 みふゆつぎ春し来ぬれば青柳の葛城山に霞たなびく 04 ながめつつ思ふも悲し帰る雁行くらむ方の夕暮れの空 05 山風の桜吹きまく音すなり吉野の滝の岩もとどろに 06 山桜今はの頃の花の枝に夕べの雨の露ぞこぼるる 07 行きて見むと思ひしほどに散りにけりあやなの花や風立たぬまに 08 君ならで誰にか見せむわが宿の軒端ににほふ梅の初花 09 あしびきの山時鳥深山出でて夜ぶかき月の影に鳴くなり 10 萩の花暮れぐれまでもありつるが月出でて見るになきがはかなさ 11 海の原八重の潮路に飛ぶ雁の翼の波に秋風ぞ吹く 12 濡れて折る袖の月影ふけにけり籬の菊の花の上の露 13 雁鳴きて寒き朝明の露霜に矢野の神山色づきにけり 14 風寒み夜の更けゆけば妹が島形見の浦に千鳥鳴くなり 15 夕されば潮風寒し波間より見ゆる小島に雪は降りつつ 16 乳房吸ふまだいとけなき嬰児とともに泣きぬる年の暮れかな 17 はかなくて今宵明けなば行く年の思ひ出でもなき春にやあはなむ 18 もののふの矢並つくろふ籠手の上に霰たばしる那須の篠原 19 千々の春万の秋にながらへて月と花とを君ぞみるべき 20 黒木もて君がつくれる宿なれば万代経とも古りずもありなむ 21 宿にある桜の花は咲きにけり千歳の春も常かくし見む 22 ちはやぶる伊豆の御山の玉椿八百万代も色は変はらじ 23 宮柱ふとしき立てて万代に今ぞ栄えむ鎌倉の里 24 うき波の雄島の海人の濡れ衣濡るとな言ひそ朽ちは果つとも 25 小笹原おく露寒み秋されば松虫の音になかぬ夜ぞなき 26 来むとしも頼めぬ上の空にだに秋風ふけば雁は来にけり 27 草深みさしも荒れたる宿なるを露を形見に尋ね来しかな 28 涙こそ行方も知らね三輪の崎佐野の渡りの雨の夕暮れ 29 旅寝する伊勢の浜荻露ながら結ぶ枕に宿る月影 30 住の江の岸の松ふく秋風を頼めて波のよるを待ちける 31 沖つ波八十島かけて住む千鳥心ひとつといかが頼まむ 32 恋しとも思はで言はば久方の天照る神も空に知るらむ 33 世の中は常にもがもな渚こぐ海人の小舟の綱手かなしも 34 物いはぬ四方の獣すらだにもあはれなるかなや親の子を思ふ 35 いとほしや見るに涙も止まらず親もなき子の母を尋ぬる 36 炎のみ虚空にみてる阿鼻地獄行方もなしと言ふもはかなし 37 塔をくみ堂をつくるも人の嘆き懺悔にまさる功徳やはある 38 時により過ぐれば民の嘆きなり八大龍王雨やめたまへ 39 うば玉や闇の暗きに天雲の八重雲がくれ雁ぞ鳴くなる 40 紅の千入のまふり山の端に日の入るときの空にぞありける 41 玉くしげ箱根のみ湖けけれあれや二国かけて中にたゆたふ 42 箱根路をわれ越えくれば伊豆の海や沖の小島に波の寄る見ゆ 43 空や海うみやそらともえぞ分かぬ霞も波も立ち満ちにつつ 44 大海の磯もとどろに寄する波われてくだけてさけてちるかも 45 君が代になほ永らへて月清み秋のみ空の影を待たなむ 46 山は裂け海はあせなむ世なりとも君に二心わがあらめやも 47 出でて去なば主なき宿となりぬとも軒端の梅よ春を忘るな 歌人略伝 略年譜 解説「源実朝の和歌」(三木麻子) 読書案内 【付録エッセイ】古典は生きている(橋本治)
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