内容
我々の身の周りの様々な要素の間の関係性は,「ネットワーク」という概念を使って表すことができる。あらゆる情報がデータベースによって管理され,膨大な量の要素間の複雑な関係を表すネットワークを実際に構築することが可能になった現代,複雑ネットワークの統計的な性質に関する関心が急速に高まっている。本書は,複雑ネットワークの統計的性質に関して,現在までの研究で得られた基礎的知見を丁寧に解説したものである。複雑ネットワークに関する著書はこれまでにも数多く出版されているが,本書は「構造的性質」にテーマを絞ることにより,複雑ネットワーク科学の基礎部分をより重点的に学習できるように書かれている。例えば,従来の著書ではスキップされがちなネットワークのフラクタル性についても,本書では章を立てて説明している。複雑ネットワーク科学は誕生からまだ日が浅い分野であるため,最新の研究成果が基礎的理解に直結していることもあれば,基礎事項といえども未だに理解されていない事柄も多い。本書では,執筆時点で得られている最新情報を踏まえた上で,理解されていることが何であり,何が理解されていないかを明確にすることで,発展途上の分野の臨場感を伝えようとしている。概念的な話に留まることなく議論に定量性を持たせるため,本書では数式が頻出するが,式の導出はできるだけ丁寧に示しているので初学者でも抵抗なく学習できよう。導出過程や証明が本書の程度を超えている場合や,本筋から大きく逸脱するような場合でも,読者がフォローできるように参考文献を示している。また,視覚的に理解し易いように,概念図を多用していることも本書の特徴の一つである。