著者紹介
エミネ・セヴギ・エヅダマ(著者):1946年、トルコのマラチャに生まれ、イスタンブールとブルサで育つ。65年、18歳でドイツへ行き、外国人労働者として西ベルリンの工場で2年間働く。その後トルコへ戻り、イスタンブールの演劇学校で学んだのち女優になるが、75年、独裁的軍政のトルコを逃れて再びドイツへ。東西ドイツやフランスで女優、舞台監督助手などとして働くかたわら、ドイツ語で作品を書きはじめる。短篇集『母の舌』(90年)、長篇小説三部作『人生はキャラバン宿、二つの扉がある、わたしは一つの扉から入り、もう一つから出た』(92年)、『金角湾にかかる橋』(98年)、『奇妙な星が大地を見つめる』(03年)など、自伝的色彩の濃い作品により、ドイツの代表的な文学賞を多数受賞。2021年、長篇小説『影に囲まれた部屋』を刊行、バイエルン書籍賞とデュッセルドルフ文学賞を受賞。22年、ドイツ最高の文学賞ゲオルク・ビューヒナー賞を受賞。ドイツ語圏以外の出身の作家の受賞は、1972年以来となり脚光を浴びた。ドイツにおける移民文学のパイオニアとみなされ、作品は世界20か国語に翻訳されている。
細井 直子(翻訳):神奈川県横浜市出身。慶應義塾大学大学院文学研究科ドイツ文学専攻博士課程修了。ケルン大学大学院で ドイツ文学、ドイツ児童文学を学ぶ2021年、ユーディット・シャランスキー『失われたいくつかの物の目録』(河出書房新社)で第7回日本翻訳大賞受賞。訳書は他に、トールモー・ハウゲン『月の石』、コルネーリア・フンケ『どろぼうの神さま』『竜の騎士』(いずれもWAVE出版)、C・G・ユング『夢分析Ⅱ』(共訳、人文書院)、ユーディット・シャランスキーシャランスキー『キリンの首』(河出書房新社)など。
内容
多和田葉子さん絶賛! “移民文学の母”の初邦訳
「移民文学の母」と称されるトルコ出身のドイツ語女性作家の短篇集。
著者は、ドイツ文学の最高賞であるビューヒナー賞を2022年に受賞、ドイツ語圏以外の出身作家の受賞は史上二人目となり注目を集めた。著者の作品は20か国語に翻訳されている。
著者初の邦訳となる本書は、移民文学の原点として重要視されているデビュー作4篇に、ビューヒナー賞受賞記念講演を併録。母語の喪失の痛みとともに、歴史、性、宗教、文学を横断し、生まれたての言葉で世界を奔放に写し取る、圧倒的な語りの魔術!
「母の舌」:トルコ人女性の「わたし」は、祖国の政治的混乱から逃れ、ドイツのベルリンで暮らして17年がたつ。祖国での母との対話や祖母の姿、覚えている単語、友人が殺された記憶などを回想しつつ「わたし」は、どの瞬間に母の舌をなくしたのか、繰り返し自問する。そして母語を取り戻すために、祖父の言葉であるアラビア語を学ぼうと決心する……
「祖父の舌」:「わたし」は失われた母語の手がかりを求め、ベルリンのアラビア書道の偉大な師、イブニ・アブドゥラーの門をたたく。指導を受けるうちに互いに愛しあい、「わたし」はイブニ・アブドゥラーの魂を身内に宿すと、アラビア文字たちは「わたし」の身体の中に眠りこんだ獣たちを目覚めさせた……