著者紹介
ピエール=ミシェル・ベルトラン(著者):1962年生まれ、左利き。パリ第一大学パンテオン・ソルボンヌ校で博士号を取得、専門は中世から近世にかけての文化史および美術史。おもな著書は『ファン・エイクの肖像画』(Le portrait de Van Eyck, Hermann, 1997)、『左利き事典』(Dictionnaire des gauchers, Imago, 2004)、『iの上にある点について——細かな知識の概要』(Le point du i : précis d’érudition pointilleuse, Imago, 2013)など。フランスでは在野の歴史家として知られ、左利きの歴史をテレビやラジオなどで解説することもある。
久保田 剛史(翻訳):青山学院大学教授。左利き。著書にMontaigne lecteur de la Cité de Dieu d’Augustin(Honoré Champion)、編著書に『モンテーニュの言葉 人生を豊かにする365の名言』、訳書にL・ドヴィレール『思想家たちの100の名言』、T・レーマー『100語でわかる旧約聖書』(以上、白水社)など。
内容
偏見はいかにして生まれ、
解消されたか
ヨーロッパの歴史において、左手は「邪悪な手」とされ、左利きは差別されてきた。ヨーロッパの諸言語には、右を「縁起の良いもの」、左を「不吉なもの」とした慣用表現が多く見られる。さらには、古代の呪術的信仰からキリスト教にいたるまで、右は「聖」もしくは「善」の象徴、左は「不浄」もしくは「悪」の象徴とされてきた。中世やルネサンスの名画でも、エバはしばしば禁じられた木の実を左手でもいでいる。
ただし、現代スポーツのサウスポーを待つまでもなく、たとえば戦闘において左利きの存在が有利に働く場面があることは古代から認識されていた。一方、平等の名のもとに不寛容が広まった時代もあり、偏見の裏返しとして左利きを天才と結びつける傾向も存在する。偏見から解消への道のりは紆余曲折あった。本書は、人文科学、社会科学、自然科学のさまざまな分野を横断しながら、左利きの人たちに対する寛容と不寛容の歴史を明らかにしていく。
中世からのテーブルマナーの変化や、美術史家は絵画からどうやって画家の利き手を見分けるのか、「右手の優越」を通して見る西洋近代の思考様式など、興味深い話が満載の文化史。