内容
落語といえば「笑わせてなんぼ」の作り話のように思われがちです。しかし、古典落語には、古代の仏教説話や中世の随筆、江戸前期の軽口噺など、過去の〈旬を過ぎた情報〉と、その落語が作られた江戸後期・明治期における政治・社会意識や事件などの、当代の〈旬の情報〉が踏まえられています。本書では、前者を時間軸の「歴史性」、後者を空間軸の「当代性」と捉え、その二軸が交差するところに古典落語が生まれたことを明らかにします。
落語の成立から百年、二百年を経た現代では、それらの「歴史性」も「当代性」も、落語の深い史層に埋没しています。そのため、成立期にはリアルだった設定も現代では非常識なデタラメに思え、含蓄に富んだ言葉遊びも薄っぺらな駄洒落にしか聞こえなくなりました。結果、落語は底の浅い作り話だと誤解されているのです。本書が掘り起こす史層によって、庶民芸能としての落語の奥深い味わいが浮かび上がります。