内容
難解とされるコフートの理論であるが,表題に「入門」とあるとおり,本書は自己心理学に関する翻訳書の中では他に類を見ないほどわかりやすく,自己心理学の基本概念から,実際の治療実践までが明快にまとめられた,優れた概説書であり臨床書である。 現代は自己愛の時代と言われている。不登校や引きこもり,キレる若者への対応にも,自己愛の傷つきと自己愛憤怒の視点が必要であろう。また全世界を巻き込んでの問題となっているアラブとユダヤ人の葛藤,そしてユダヤ人を通してのアラブとアメリカの葛藤も,同様の視点を“グループの憤怒”までに広げたコフートの理論から見直せば,平和に向けての糸口を探す際に,重要な示唆を与えてくれる。 こうした時代に,われわれはもっと自己愛の諸相,自己愛の問題を深く知り,真剣に考える必要がある。自己愛に焦点を当てた自己心理学の観点は,現代を読み解き,臨床に向かう際の非常に大切なセンスとなるであろう。