内容
ヒステリーが精神医学の表舞台から退場し、かつての劇的な身体症状や振る舞いは今や稀な現象となりつつある――しかし、巨大なヒステリーの幻影は未だ潜勢している。ヒステリーから表現形を変えた解離は、気配過敏、想像的没入、人格交代、空間的変容/時間的変容、幻覚・幻聴をはじめとする多彩な症候をまとうようになった。本書の前半・症状構造論では、「色」「夢」「眼差し」など解離に特徴的な表象を手がかりに、気配過敏、想像的没入、人格交代、空間的変容/時間的変容、幻覚・幻聴など解離の典型的症状を論じながら、当事者の主観的体験世界を触知する。本書の後半・鑑別診断論では、境界例、自閉症スペクトラム障害、統合失調症との困難な鑑別方法を症候学的観点から解説していく。そして終盤の治療論では、「救済者」「犠牲=身代わり」「場所」などのキーワードを足がかりとして、夢と現実の境界線上に「いま・ここ」を構築して交代人格と交流をはかり、安全な場所のなかで回復に至る軌跡を描いていく段階的治療論が語られる。症状構造から治療のエッセンスまでを析出した、解離性障害を理解するための比類なき決定書。