内容
ハロルド・スチュワートは,長年にわたって英国精神分析協会の訓練精神分析家,英国独立派の代表的な精神分析家として活躍した。患者の内的空間の経験における変化という論題でまとめられた本書は,寡作をもって知られる著者の真にオリジナルな思索が凝縮された代表作である。
著者は,ある学派や派閥で信奉されている概念装置を盲目的に拝受し、そのまま臨床現場に平行移動させて適応するようなことは決してなく,自身の実践感覚に正直に既存の理屈に厳しい査定の眼差しを向け続けることで,一回性を宿す臨床を瑞々しく描写する。
精神分析実践のセントラルドグマであろう「転移」と「解釈」についても、転移解釈以外の作用因(再構成や治療的退行など)、転移外の対人関係や治療関係の現実性も重視し,クライエントの発するさまざまな問題(キャンセルや行動化など)を病理や防衛としてだけではなく、ある種のコミュニケーションとしても理解する必要性も説く。
本書には,分析家の戸惑いや彷徨も含み込んだうえで、解釈やマネジメントなどの介入を案出していくプロセスが克明に記述されており,そのきわめてリアルな臨床素描は,読者になんらかの体験を喚起するであろう。