内容
著者「はしがき」より
Translators, traitors. ( 翻訳者は裏切り者 )
これはイタリア語のことわざの英訳である.
「裏切り」にもさまざまな種類と程度があるが,たとえば,原文の味わいを伝ええない“直訳”や,原文への忠実さを欠く“意訳”も,このことわざのいう裏切りに含まれることになるのだろう.
しかし,“直訳”も“意訳”も,『表現』の仕方の問題であって,ふつうは「正訳」か「誤訳」かを区別する要素にはなりえない.
「誤訳」とは,原文の『解釈』を誤ることから生じる 訳文である.
本書は,“あら探し”から最も遠い立場に立ち,「人の常」である誤りからできるだけ多くを,楽しく,興味深く学ぶことを 編述の目的としている.
多様な誤りのユニークな独創性に感心したり,珍重すべき奇抜さを愛でたりしながら,誤訳の妙味を味わい,言葉のユーモアを楽しみつつ,英語に対する多角的な理解を深め,広げることになる.
本書の大きな特長の一つは,日本語で独特の貴重な役割を果たし,文学作品などでも幅広く愛用され,翻訳とも大切なかかわりをもつ「オノマトペ」(擬音語・擬態語)の項を設けたことである.
大別して,
( a )英語の作品の“和訳”において ――どのような英語の語句・表現に対して,どんなオノマトペを用いて訳文がつくられているか.
( b )日本語の作品の“英訳”において ――日本語独特のオノマトペのそれぞれの意味合いやニュアンスが,どのように工夫して英語で表現されているか.
などを, 具体的に例示した.