内容
18世紀末から19世紀初めのフランス革命・ナポレオン時代,フランスは近隣のネーデルラント,イタリア,ドイツなどから夥しい数の美術品,学術資料など文化財を収奪し,それらを首都パリに集めた。この収奪は軍事的圧力の下に行われ,「自由の国フランス」こそは全世界の貴重な美術品が本来存在すべき場所であるという,革命のイデオロギーによって正当化された。第I部では,文化財の収奪の過程を跡づけ,その実態を解明するとともに,収奪を正当化する様々な言説を明らかにする。第II部では,収奪された絵画と彫刻作品が,フランスでどのように活用されたのか,新設のルーヴル美術館における公開展示を中心に考察する。さらにナポレオン失脚後の美術品の旧所有国への返還について,双方の思惑や駆け引きなど,その経緯と影響を検討する。フランス革命・ナポレオン時代の「フランス中心主義」が,文化的にはどのような現象を引き起こしたのか,その実態を文化財の収奪という歴史的事実を通して本格的に明らかにしたわが国初の画期的な業績である。ナポレオン帝国の崩壊から200年,革命と戦争の陰で見逃されてきた,もう一つの近代に光を投ずる。