内容
本書の目的は,複素関数論あるいは複素解析学に入る前の段階までの数(カズ)としての複素数について厳密性を維持しながらできるだけ平易に解説することである。新しい工夫としては,通常の教科書ではあまり触れられることのない数の超越性の初等的部分を扱う点と,複素数と「定規・コンパス」の組み合わせを強調したことである。 自然数から数を順次拡大する必然性を“代数方程式の原理”(根の存在)に求め,これを柱に複素数の理論を展開する。代数方程式の定理(ガウス)の証明を実数の完備性に基づき厳密に証明する。応用として,超越性の判定において古典的なリュービルの定理や,eやπの無理数性と超越性の初等的証明を与える。一次変換と等角性を解説し,その結果を用いて非ユークリッド幾何学を平易に解説する。 各所に複素数の演算を「定規とコンパス」で実現する解説と演習が与えられている。この延長線上で最終的には,非ユークリッド双曲幾何を定規とコンパスで描くことを実行する。本書を最後まで読まれた読者は,非ユークリッド双曲幾何の無矛盾性がポアンカレモデルを通してユークリッド幾何のそれに帰着し,結局は実数論の無矛盾性に帰することを経験することになる。一見抽象的と思われるロバチェフスキー・ボリアイの非ユークリッド双曲幾何もその原理は定規・コンパスで紙上に実現されるということを体験することとなる。 巻末補足では,対称式,代数的数の四則,集合論的実数の構成の解説をする。