内容
本書は790年前後に執筆されたもので,ランゴバルドの民族起源からはじまり,いわゆる民族移動期の動乱を経てイタリア半島に進出し,2世紀あまり後にフランク王国に滅ぼされるまでの歴史的経緯を描く。達意の訳文と詳細な訳注を付した第一級資料の初の翻訳である。ランゴバルドがラテン語文献に出てくるのは1世紀になってからであるが,タキトゥスは『ゲルマニア』で,彼らは少数部族でありながら独立不羈の精神と勇猛果敢さによって,周辺民族から一目置かれたと述べている。ランゴバルド族はスカンジナビア半島から発祥し,人口の増加に伴い新天地を求めて南下,ヴァンダル族との戦いで勝利したが,飢饉に見舞われ,その後もヨーロッパ各地を転々としていった。ローマ軍をはじめ各地で敵対する部族と闘いながら,568年にイタリア半島に侵入,イタリア北部・中部を中心に征服するが,774年フランク王カール大帝との戦いに敗れ王国は崩壊する。著者は人物の意志や行為を重視して,アルボイン,テウデリンダ,グリムアルド,クニンクベルトなど代表的な人物に光を当てるとともに,多くの多彩な人物を活写してランゴバルドの歴史とそれを支えた人物群を描く。中世ヨーロッパ誕生の現場を見る格好の書である。