内容
ポピュリズムとデモクラシーの深層へ 東日本大震災とそれに続く東電福島第一原発事故は、科学と社会に深刻な亀裂をもたらした。どの情報が正しいのか? 誰を信じればいいのか? 突然「聖性」を帯びた〈反原発学者〉の姿は、さながら聖人を思わせるものがあった。 本書は、『労働階級と危険な階級』のルイ・シュヴァリエや『預言者の時代』のポール・べニシューに触発されつつ、カトリックの大伽藍が崩壊した大革命以降の歴史を司祭(エリート)と野生人(民衆)の抗争として描く試みである。 その際、鍵となるのは、〈フェティシズム〉という概念である。 旧体制を批判する一環としてあらゆる事物の起源が探究された啓蒙主義の時代、この概念は言語の起源や宗教の起源への関心の下、古代人(エジプト人)と野生人(アフリカ黒人)の信仰として見出されたが、19世紀に民衆が「文明社会に侵入した野生人」として、すなわち「危険な階級」(シュヴァリエ)として前景化してくると、その中核的な分析枠組みとして急浮上してゆく。 昨今、ポピュリズムが何かと議論になるようになったが、フェティシズムをめぐる司祭と野生人のこの抗争を読み解くことで、初めてその深層は明らかになる。その先に、信じることが、なぜいつも困難なのかの答えも見えてくるはずだ。