内容
親族という概念は、社会の構造と発展だけでなく、市民の日常的な交流を理解する心臓部にあります。本書は、アテナイ社会における親族の構造と認識を包括的に説明し、ドラコンとソロンからメナンドロスまでのアルカイック期および古典時代をカバーすることによって、これらの問題を明らかにすることを目指しています。著者であるS・C・ハンフリーズの古代史と人類学における共通の専門知識に基づき、あらゆる碑文や文学、考古資料を数十年に渡って研究した結果、読者の指先に豊富なデータを置くだけでなく、厳密な分析を行いました。行動パターンを再構築する人類学的アプローチを利用することによって、家族の生活、儀式、経済的なやり取り、法的問題、政治、戦争など様々な社会的背景を考察し、古代アテナイ人の親族関係について人類学的な“厚い記述”を提供いたします。
全2巻からなる本書は、どちらも古代史料を用いた人類学的アプローチを利用しています。第1巻では、法的あるいは経済的制約(養子縁組、後見人の職務、婚姻、相続、財産)によって形成される交流と対立を考察することはもちろん、儀式に関わるより任意的な関係(命名の儀式、通過儀礼、葬儀と記念式典、奉納の儀、儀式集団)や、公式(集会、議会)と非公式(hetaireiai:共通の関心や目的を持つギリシア人の団体)の関係についても追究しています。また、名前とニックネームの社会学的分析についての議論をはじめ、法的な争いにおける恵まれた女性とそうではない女性の親族の構造の特徴や、父と子の間にある独立と依存の経済関係といった、重要かつ斬新なテーマを含んでいます。第2巻は、父子関係によって集められた父系氏族集団に着目し、市民の集まりから細分化した親族関係の役割に焦点を当てています。つまり、部族や、クレイステネスによる10部族制のデーモス(区)の配置以前・以降のトリッテュス(いくつかの行政区から構成された地区。3分の1部族とも)、フラトリア(兄弟団)、氏族、デーモス(行政区)などです。デーモスについての章では、一般的な行政区としての機能ではなく、その多様性が強調されています。また、各部族毎に目録を編成することで、その位置情報と人物研究の包括的な情報を提供しています。