著者紹介
野口 武彦(著者):野口武彦(のぐち・たけひこ)
1937年東京生まれ。文芸評論家。早稲田大学文学部卒業。東京大学大学院博士課程中退。神戸大学文学部教授を退官後、著述に専念する。日本文学・日本思想史専攻。1973年、『谷崎潤一郎論』(中央公論社)で亀井勝一郎賞、1980年、『江戸の歴史家─歴史という名の毒』(ちくま学芸文庫)でサントリー学芸賞受賞。1986年、『「源氏物語」を江戸から読む』(講談社学術文庫)で芸術選奨文部大臣賞、1992年、『江戸の兵学思想』(中公文庫)で和辻哲郎文化賞、2003年、『幕末気分』(講談社文庫)で読売文学賞を受賞。著書多数。最近の作品に『慶喜のカリスマ』『忠臣蔵まで』『花の忠臣蔵』『元禄六花撰』(講談社)、『幕末明治 不平士族ものがたり』(草思社)などがある。
内容
「元禄」という、江戸時代のあるひとつのピークにこだわりつづけてきた野口武彦氏が「平成」の終わりを見据えて放つ。将軍綱吉の治世後期、元禄から宝永は経済バブルの崩壊と災害が表裏の時代だった。漠然とした不安と鬱屈が世を覆うとき、人びとはいかに生きたか。美しく死ねた者、なまじ生き残ってしまった者、己が才覚の扱いに悶える者。人生のさまざまな姿が異常なまでにクッキリと浮かび上がった魔術的な時空間を描く五篇。
「元禄」という、江戸時代のあるひとつのピークにこだわりつづけてきた野口武彦氏。その野口氏が「平成」という時代の終わりを見据えて放ったのが本書『元禄五芒星』です。
将軍綱吉の治世後期、元禄から宝永は経済バブルの崩壊と災害が表裏の時代でした。さらに特筆すべきは、この時代は跡継ぎのいない将軍の時代だったということです。「元禄」の出典は『文選』の「建立元勲、以歴顕禄、福之上也」ですが、この時代は赤穂浪士の名を後世に打ち立てとはいえ、それは果たして「福之上也」というべきか。ちなみに「平成」は『史記』の「内平外成」、『書経』の「地平天成」に拠りますが、そのとおりの時代であったか……。漠然とした不安と鬱屈が世を覆い、先の御代は見えないとき、人びとはいかに生きたのか。死を以ての生の燃焼、なまじ生き残ったがための恨み、己が才を活かせるや否や、才覚でのし上がってからの一抹の寂寥。人生のさまざまな姿が異常なまでにクッキリと浮かび上がった魔術的な時空間を描く五篇をお楽しみください。