■ ProQuest Historical Newspapers:
Chinese Newspapers Collection と近現代中国史研究の可能性
東京大学大学院経済学研究科 城山 智子 教授
ProQuest Historical Newspapers: Chinese Newspapers Collectionは、清朝末期(1832年)から中華人民共和国初期(1953年)までに、中国で刊行された英字新聞、以下12タイトルをデジタル化したデータベースである。
- North China Herald (Shanghai, 1850-1941)
- The China Press (Shanghai, 1925-1938)
- China Critic (Shanghai, 1939-1946)
- China Weekly Review (Shanghai, 1917-1953)
- Chinese Recorder (Shanghai, 1868-1940)
- Chinese Repository (Guangzhou, 1832-1851)
- Peking Daily News (Beijing, 1914-1917)
- Peking Gazette (Beijing, 1915-1917)
- Peking Leader (Beijing, 1918-1919)
- Shanghai Times (Shanghai, 1914-1921)
- Shanghai Gazette (Shanghai, 1919-1921)
- Canton Times (Guangzhou, 1919-1920)
19世紀以降、中国沿海部の開港場及び植民地である香港・マカオでは、多数の外国語新聞が刊行された。宣教師や外国商人、外交官を対象として発刊され、また彼らから集められた情報を記事にしたそれらの新聞が、近現代の中国史を研究する上で極めて重要な史料であることは、既に、半世紀前、香港上海銀行史研究を始めとする中国・アジアの通貨・金融史の先駆者の一人であったフランク・H・H ・キング香港大学教授によっても指摘されている。Frank H. H. King ed., A Research Guide to China-Coast Newspapers (Cambridge, Mass.: East Asian Research Center, Harvard University, 1965)は、200タイトル余りの外国語新聞をリストアップした上で、研究者の多くが発行部数が多く比較的手に入りやすく、また刊行期間の長い、China Mail (Hong Kong, 1845-1974) とNorth China Herald を利用するばかりで、その他の新聞には必ずしも十分関心が向けられていないことに注意を喚起している。今回のデジタル化・データベース化に当たり、North China Herald のみならず、発行地点と時期を異にするタイトルも含まれていることは、外国語新聞を利用してより広範な地域に関して長期にわたって研究を進める可能性が広がったという点でも、高く評価される。
本データベースの大きな特徴は、収録されている全てのタイトルにわたって、キーワード検索が可能になっていることである。研究テーマに関係するキーワードを入力するだけで、関係すると考えられる新聞記事を瞬時に収集することができるので、文献調査を効率的に進める上で極めて有効なツールであることは明らかである。しかし、キーワード検索は、単なる省力化の手段であるに止まらず、社会経済史研究を行う上で重要な、データの定量化への可能性を拓いていることを、見逃すことはできない。例えば、一つのタイトルを選択し、そこで一つのキーワード、例えば「typhoon」を入力するとするならば、検索機能はその用語が含まれた文献を抽出すると同時に、年次月次での記事の分布を表示する。こうした作業を通じて、文献の内容だけではなく、何らかの災害や事件の発生頻度や季節性に関する仮説を構築することが可能になる。
また、検索機能を通じて、新聞に掲載された、船の入出港、物価、金融情報などに関する様々な数量データを大量にかつ通時的に収集し、データベースを構築することができる。中国経済史は、1860年代以降、中国海関統計・資料を利用することが出来るため、アジア経済史の中では比較的数量データには恵まれている。しかし、商品価格や地価、賃金などの経済史研究の基礎のとなるデータでも、十分に統計が揃っているとは言いがたい。North China Heraldを始めとする重要な新聞から検索機能を使って、統計を「作る」ことができるならば、大きな研究の前進を期待できる。
このように、ProQuest Historical Newspapers: Chinese Newspapers Collectionは、文献調査を推し進めるだけではなく、新たなテーマや手法での研究を行う可能性を提示している。より多くの研究者と学生が、こうした機会に恵まれることを望みたい。