■ Chinese Newspapers Collectionで 「The North China Herald」を読む
—中国と日本、そして東アジア研究のための宝庫
神奈川大学外国語学部中国語学科 孫 安石 教授
戦前期に中国で刊行された多くの英字新聞の中で、The North China Herald and Supreme Court & Consular Gazette(以下、The North China Heraldと記す)は、最も長期間に亘って発行された新聞であり、その記事内容は上海と中国に止まらず、日本と朝鮮半島、さらに東南アジアを包括するものであることから、同新聞は東アジアの歴史研究のための「宝庫」と言えよう。同紙に、雑誌のThe Far Eastern Review: Commerce, Engineering, Financeを加えれば、我々は欧米の人が東アジアで営んでいた日々の政治と経済、そして社会と文化活動がいかなるものであったのかを垣間見ることができよう。但し、多くの場合、The North China Heraldの利用には、言語の壁の他に一部の図書館にしか所蔵されていないというアクセス面のハードルを越えなければならなかったが、ここにきてThe North China Heraldを含む合計12種類の英字新聞の横断検索が可能になったProQuest Historical Newspapers: Chinese Newspapers Collectionが登場したのである。
また、日本ではThe North China Heraldが上海で発行された欧米系の新聞のなかで「反日」的な論調を展開した代表的な新聞の一つとして取り上げられることが多いが、同新聞が最も重視していたのは、欧米諸国が設定した租界の利益を守ることにあったことを忘れてはならない。その典型的な例が、蔣介石の国民革命軍が北京の軍閥政府打倒を目指した1927年の軍事行動(北伐)と1928年の済南事変の勃発と共に巻き起こった日貨排斥運動に関する同紙の論調であろう。1928年4月14日の記事「Manifesto by General Chiang Kai-Shek to the Powers」や同日の風刺漫画を読めば、同紙が最も重視したのは、国民革命軍の「正義」や中国の「統一」という理想論ではなく、国民革命軍が排外主義をとらず、「外国人」の生命と財産を保護することを約束した、という蔣介石の声明文であったことがよくわかる。
私にとってもう一つThe North China
Heraldをめくる楽しみは、1923年から同紙の政治風刺画を担当した上海の偉大な漫画家「Sapajou」(中国名:薩帕喬)の作品に出会うことである。
ロシア革命を逃れて1920年に上海に到着したSapajouは、The North China HeraldとThe North-China Daily
Newsに政治風刺のコラムの連載をもち、鋭いタッチで当時の中国と欧米諸国、そして日本が対立する国際政治を風刺する優れた作品を世に送り出したのである。これらSapajouの風刺画は後にShanghai’s
schemozzle(by The North-China Daily News,1937年)として刊行されるが、そこには中国の利権を侵略する日本の貪欲さが余すところなく辛辣に描写されている。
今回のProQuest Historical Newspapers: Chinese Newspapers Collectionの登場によって、一人でも多くの研究者と学生が中国と日本、そして東アジア研究のための「宝庫」に出会うことを切に願いたい。