内容
本書では,まず歴史的に鍼灸がたどった足跡を述べることで,現在の鍼灸の置かれた立場を明らかに,あわせて今後鍼灸が進むであろう方向について考察を加えます.呪術としての「いぶし」と,痛いところを押さえ,焼灼するという思いからまず灸が生まれ,次に紀元一世紀から鍼が急速に発達して,その理論を踏まえた薬理学,さらに漢方薬の使用が始まったといわれます。これらは,「未病を治す」という原則から言っても,現代の予防医学に通じるものがあります。このような観点から,本書では鍼灸の成り立ちから,近世に至るまでの経過を振り返りながら,明治以後,欧米から導入された医学の立場からみて鍼灸の本体の解明に力を尽くした人々の業績を挙げて記述しました.後半は,鍼灸がどこまで科学的に説明できるのか,つまりツボの正体はどのように考えられているか,また鍼灸で痛みが抑えられるのはなぜかといった問題を,医科学的に解説しています。本書が,医科学からみた鍼灸,医科学の中での鍼灸の存在意義の理解に多少でも役立てば幸いです.