内容
「イスラーム国」を自称するISIL(本書では「ダーイシュ」と表記)を含め、イスラーム過激派によるテロに関しては、すでに多くの著作が書かれているが、本著の著者オリヴィエ・ロワは独自の視点からこの問題に切り込む。
「イスラームが過激化したのではなく、現代の過激性がイスラームのなかに入ってきた」、彼はそう主張するのだ。
そのさい著者は、イスラームの歴史という縦断的なアプローチではなく、19世紀のアナーキストにはじまり、文化大革命期(1960~70年代)中国の紅衛兵、1970~80年代の日本赤軍やドイツ赤軍、クメール・ルージュなどによる大量殺戮【ジェノサイド】、さらには1990年代のカルト教団の「集団自殺」を経て、現在のジハーディズムにいたるまでの暴力の系譜を横断的に辿ることで、現代のテロリズムを分析しようと試みる。
研究のベースとなっているのは、膨大な数のテロリストのプロファイルである。大量殺人に手を染めた人たちの履歴を具体的に調べると、現代の若いテロリストに共通するつぎのような横顔が浮かびあがる。
西洋社会にどちらかといえばよく同化した移民の第二世代に属していること。信仰とはほとんど無縁の生活をおくっていたのが、軽犯罪を犯したことを機に獄中でイスラーム過激思想と接したこと。多くの場合、過激思想への「目覚め」からきわめて短期間のうちにテロ行為に走っていること。さらには、改宗者がきわめて大きな割合を占めること。
なぜジハーディズムがこうした若者たちを惹きつけるのか? 著者はその答えを、現代のテロ組織の特徴――世代主義、死への希求、若者文化への徹底的な適応(音楽や映像の多用、コミュニケーション手段の共有など)――に見出している。たとえISILが壊滅しても、若者が死と暴力に自己実現を託す現象は形を変えて続くだろう。本書は、過激派の「魔法」を解くためには、まずはその現象を冷静に読み解く必要があると訴えているように思われる。(つじ・ゆみ 翻訳家)