内容
Ⅰ.臨床的側面
はじめに
鏡像書字(mirror─writing)(同義語、ecriture en miroire[仏]、Spiegelschrift[独]、lithographic writing、levography、abduction─schrift、scrittura speculare)とは、通常と反対方向に書かれ、各々の文字も反転した書字をいいます。書かれた文字は、鏡の前に掲げないと判読が困難で、鏡像書字の身近な例には、吸い取り紙にみられる文字の跡があります。
鏡像書字は最も対照的な2つの状態―すなわち知的障害を有するものと、高い知能をもった者―にみられます。Soltmanは、鏡像書字を病んだ精神の鏡であると述べていますが("in der Spiegelschrift der Spiegel und Ansdruck einer kranken Seels")、これは本来正常な過程である、とみている研究者もいます。鏡像書字は小児にも成人にもみられ、無意識にでも、故意にでも生じることがあります。
鏡像に書くことは少しの練習で誰にでもできる、ということが重要です。また、無意識に逆転した文字があらわれる手技があり、たとえば、前頭部に貼った紙や、カードの裏面、身体と直角の矢状断面の両面、これらに書くと文字は鏡像書字になることがあります。しかし、このような行為は手品じみたもので、当面の問題には何ら答えを与えるものではありません。
本書に述べられる内容は1928年3月7日、パリ警視庁付属医務室において口演された。