内容
確率微分方程式は,1942年に伊藤清により創始され,拡散過程の構成,偏微分方程式理論への応用,微分幾何学への応用,数理物理学への応用など様々な分野で広く利用されている。さらに,20世紀終盤には数理ファイナンス理論の発展の基礎として用いられた。また,1970年代半ばに始まったマリアバン解析と融合し,確率解析と呼ばれる研究分野の中核となっている。 本書は,強い解と呼ばれるマリアバン解析との融合に不可欠な確率微分方程式の解に焦点を当て,その常微分方程式的なダイナミクスとしての性質を中心に解説を行う。さらにそれらの応用として,最後の2章で,経路空間での無限次元解析への展開,数理ファイナンスへの応用について言及している。 また本書は,測度論・確率論および他の解析学分野の諸結果に関して,少ない準備で確率微分方程式を学ぶことができるよう,なるべく他の文献を紐解くことなく読了できるように配慮した。たとえば,確率微分方程式の解析において不可欠な条件付き期待値の存在について,L2空間論を利用した証明を与えた。また,ブラウン運動によって駆動される確率微分方程式だけを取り扱うことで,確率積分の導入を容易にしている。初等確率論の知識があれば本書の内容がより深く理解できるが,大数の法則や中心極限定理を知らなくても本書を読み切ることは可能である。