内容
丸山眞男から遠く離れて 福澤諭吉という眩しい光の傍らで忘れられた阪谷素と加藤弘之、徳富蘇峰が夢見た「新日本」、万歳三唱にかき消された後藤新平の「いやさか」、権藤成卿の「社稷」と偽史、丸山眞男が自ら「夜店」と称して遠ざけた「丸山政治学」、そして丸山学派のなかでは風変わりな弟子だった神島二郎…… 日本政治思想史――。丸山眞男が創始したこの学問分野は、政治学のみならず、戦後思想を牽引してきた一大領域だったと言っていい。ただ、そこで批判の俎上にのせられたのはマルクス主義と天皇制であり、光が当てられたのは荻生徂徠や福澤諭吉といった思想家だった。 ここで取り上げるのは、光ではなく闇である。もちろん、光に幻惑され闇に沈んだ事象の意味を問い直す試みは決して新しいとは言えない。民俗学や社会史が民衆や習俗に向けた眼差しはまさにそうした問題意識の所産である。ところが、こうした視線で見出されるのは集合表象としての民衆でしかなく、一人ひとりの生身の人間ではない。 本書は、思想史という枠組みに依拠しながら、明治・大正・昭和というそれぞれの時代を象徴する一齣を提示する試みである。丸山から遠く離れた「シン・日本政治思想史」へ!