皮膚病理組織診断学入門 改訂第3版
斎田 俊明 著
内容
目次
【書評】 皮膚病理学には皮膚科専門医なら皆精通していなければならない、というのは大学で教育的立場にある者にとっては建て前のところもあるが、そう言わざるをえない。しかし現実には、皮膚病理学が得意な皮膚科医の一群とそうでない者に分かれる。私も後者であるが、この『皮膚病理組織診断学入門』の著者、斎田俊明信州大学名誉教授もその一人と謙遜されていた。「川島君ね、Mihm先生(ハーバード大学皮膚病理教授)とか熊切正信先生(福井大学名誉教授)とかはね、顕微鏡を覗いた瞬間にその病理像が何を表現しているかがわかってしまうのですよ。感性で診断できてしまうのです。でもね、形態学に弱い僕にはそれができない。皮膚病理医としての優れた感性に欠けるのですよ。だから、皮膚病理を理詰めで観察しなければならない。logicを重ねて自分で納得しながら診断に至るしかない。その最低限の過程をまとめたのが2000年の初版なのです」と言われた。 皮膚科医の駆け出しの頃、組織カンファレンスでプレゼンテーションを行っていると、先輩から「見えても見えぬか」と言われたものである。その病理像が意味するところは、網膜に投影された像を表現するにとどまっていては、診断には至れない。それを特殊な感性でショートカットして理解するか、あるいは地道に理詰めの思考を巡らせて正しい診断に至るか、しかない。多くの皮膚科医は失礼ながら後者であろう。その多くの皮膚科医にとって、これまでの皮膚病理の教科書はとっつきにくいものでなかったであろうか。それは高い感性の持ち主たちが書かれたものがほとんどを占めていたからである。その著者にとっては当たり前のところがスキップされてしまっているがために、手がかりを見つけることができず、難解な教科書という印象を抱いてしまい、「愛読書」にはなりえずにおしまい、となっていたのではなかろうか。 本書の著者は我らが代表である(と言っては失礼であるが)。見えているものを一つ一つ正確に抽出しながら、鑑別診断を様々な方向から考え、その違いを詳細に記載しながら、誰もが納得できる論理で最終の病理診断に至る、我々にもできる、我々が行うべき病理診断の流れそのものの教科書である。だから、体裁は重厚な病理の教科書であるが、読み進めてみると難解さは微塵も感じられないものとして完成している。「理論的に思考する過程を肉付けしていったら、第2版そして今回の第3版に自然と膨らんできました。私の中でも少しは理論が成長しているのですね」とまたまた謙遜されていた。「でもね、学問というのは苦労して身に付けるものなのでなければならないと思います。だから、今流行りの安易なハンドブック的な教科書にはしませんでした」と斎田先生らしい、厳しさも一言付け加えられた。 本書の特徴は上述したところにあるが、明瞭な病理写真はもちろんのこと、メモの欄がまたとても役立つのにも気づかされる。病理メモにとどまらず、診断、治療、疾患の位置づけ、最新の関連トピックまで言及されており、単なる皮膚病理の教科書にとどまっていないところも特徴である。斎田先生の博学たるところが現れている。 病理の得意な指導的立場の皮膚科医には、いかなる理論をもって教育すれば若き皮膚科医に理解されるかを学ぶことができる教科書である。そして、病理のちょっと苦手な皮膚科医にとっては、「愛読書」になりうる皮膚病理学の教科書がようやく誕生したと言えよう。さらには、皮膚病理に接点を有する皮膚科医以外の先生方にとっては、皮膚科医としてのトレーニングなしに読み進めることができる唯一の皮膚病理学書である。 臨床雑誌内科121巻6号(2018年6月号)より転載 評者●東京女子医科大学名誉教授 川島眞 【改訂第3版の序】 皮膚病理組織学は皮膚科学のなかでも最も長い伝統を有する分野である。著者が皮膚科学の研修を始めた1970年代初頭、この分野の代表的教本はLeverの"Histopathology of the Skin"とPinkus&Mehreganの"A Guide to Dermatohistopathology"の2冊とされていた。当時、顕微鏡に載せたプレパラートを、この2冊の書籍の頁をめくりながら検討したが、診断の手掛かりが何もえられず、しばしば途方にくれたことを憶えている。1978年に発行されたAckermanの"HistologicDiagnosis of Inflammatory Skin Diseases"はパターン分析による画期的な診断手法を導入した名著である。しかし、この書籍も初版の段階では、各論的記載に乏しく、使い勝手のよいものではなかった。 著者が本書の執筆を企画したのは、形態学・病理学が得手でない自分のような者が、皮膚病理組織診断を行う際に手許に置いて役立つテキストを1冊にまとめておきたいと考えたからであった。2000年に初版を刊行したところ、鑑別診断に力点を置いて解説したこともあってか、診断確定に役立つ実用的なテキストであると、一定の評価をいただくことができた。2009年に刊行した改訂第2版では各論を112疾患から150疾患へ増やし、臨床画像も掲載して理解を深めるように工夫した。 今回の改訂第3版においては、これまでの形式を踏まえたうえで、以下のような改善を加えた。 1)各論で取り上げる疾患を193疾患へと大幅に増加した。病理組織所見が重要とみなされる疾患は、稀有なものも、また近年報告されたものも、なるべく多く各論に採用するように努めた。今回の改訂により、各論の疾患リストはかなり網羅的になったといえる。 2)判型をA4判へ拡大し、組織画像を一回り大きく掲げるようにした。また、各論の画像については所見の説明字句を直接、図中に書き込むようにした。これによって、所見を明確に把握していただけるものと期待している。 3)総論・各論とも旧版の記載を全面的に再検討し、大幅な書き直しと画像の差し替えを行った。ほぼ全編にわたって新規原稿を作成した、というのが著者の実感である。 4)見開き2頁とした各論前の空き頁を利用し、「診断に役立つ皮膚病理組織の豆知識」と題して、コラム的な記事を掲載した。 5)改訂第3版は電子書籍としても発行することとした。 今回の改訂に際しては、謝辞欄に記載した諸先生から貴重な資料を拝借することができた。症例の貸与をご快諾いただいた先生方に改めて深謝したい。また、南江堂出版部の大野隆之部長と杉山由希さん、制作部の高橋龍之介さんからは貴重な提案と助言をいただいた。この間、著者からの面倒な要望を聞き入れていただき、最終段階に至るまで画像の差し替えなどに迅速に対応していただいた。納得のいく改訂作業を進めることができたのは、上記3名のご高配のおかげである。 初版刊行から17年間が経過したが、この間に著者自身も皮膚科学に関する経験と知識を多少ではあるが、積み重ねてきた。本書にはそのささやかな進歩も随所に反映させたつもりである。他方、本書は教科書であるので、正確な記述となるように最大限の注意を払った。不正確な教科書は初学者の混迷を深め、実害を及ぼすからである。正しい知識を明晰に伝えるように全力を尽くしたが、何分にも単著であるので、思わぬ誤記・誤謬もあることと思われる。ご指摘・ご批判下さるようにお願いしたい。本改訂版が皮膚病理組織学を学ぶ読者に少しでもお役に立つことができれば幸いである。 2017年秋 斎田俊明 【目次】 総論 1.正常皮膚の組織所見 A.正常皮膚の組織構築 (1)表皮 Epidermis (2)表皮・真皮境界部 Dermo-epidermal junction (3)真皮 Dermis (4)皮下組織 Subcutaneous tissue (5)皮膚の脈管系 Vasculature of the skin (6)皮膚の神経系 Peripheral nerve of the skin (7)皮膚の付属器 Adnexae of the skin B.皮膚の発生 2.皮膚病理組織学の基本的所見と用語 A.表皮の所見 (1)角質増生(過角化) hyperkeratosis (2)表皮肥厚 acanthosis,表皮過形成 epidermal hyperplasia (3)乳頭腫症 papillomatosis (4)海綿状態 spongiosis (5)棘融解 acantholysis (6)表皮内水疱 intraepidermal bulla (7)球状(風船状)変性 ballooning degeneration,網状変性 reticular degeneration (8)表皮内細胞浸潤 exocytosis (9)膿疱 pustule,表皮内微小膿瘍 intraepidermal microabscess (10)異常角化 dyskeratosis (11)シバット小体 Cvatte body (12)Epidermolytic hyperkeratosis(表皮融解性過角化)あるいは顆粒変性 granular degeneration B.表皮・真皮境界部の所見 (1)液状変性 liquefaction degeneration,小空胞状変性 vacuolar degeneration (2)苔癬様反応 lichenoid reaction (3)表皮下水疱 subepidermal bulla (4)基底膜肥厚 thickening of basement membrane C.真皮の所見 (1)炎症性細胞浸潤 (2)血管炎 vasculitisと血管症 vasculopathy (3)肉芽腫 granuloma (4)肉芽組織 granulation tissueと瘢痕組織 scar tissue (5)沈着症 (6)結合織の変化 D.皮下脂肪織の所見 (1)中隔性脂肪織炎 septal panniculitis (2)小葉性脂肪織炎 lobular panniculitis 3.皮膚生検の方法と染色法の選択 (1)生検法と標本の提出 (2)特殊染色 (3)蛍光抗体法と免疫組織化学的検索 4.皮膚疾患の病理組織診断 A.皮膚病理組織診断の基本的な考え方 (1)診断行為と皮膚病理組織学 (2)皮膚病理組織診断の考え方 B.病理組織診断の具体的手順 (1)プレパラートをどう観察するか (2)病理組織診断をどう決定するか C.腫瘍性皮膚疾患の病理組織診断 (1)腫瘍の定義 (2)良性腫瘍か悪性腫瘍かの病理組織学的判定 (3)皮膚悪性腫瘍の種類と病理組織診断 (4)良性皮膚腫瘍の病理組織診断 D.炎症性皮膚疾患の病理組織診断 (1)組織診断のむずかしさ (2)炎症性皮膚疾患の組織学的診断法 (3)組織反応パターンの分類と診断法 E.その他の皮膚疾患の病理組織診断 各論 1.Acanthosis nigricans 黒色表皮腫 2.Adenoid cystic carcinoma 腺様嚢胞癌 3.Adult T-cell leukemia/lymphoma(ATLL),cutaneous type 成人T細胞白血病・リンパ腫,皮膚型 4.Allergic contact dermatitis アレルギー性接触皮膚炎 5.Amyloidosis,primary cutaneous type 皮膚アミロイドーシス,皮膚原発(限局性)アミロイドーシス 6.Angiofibroma,Fibrous papule of the nose/face,Perifollicular fibroma 血管線維腫,鼻部(顔面)線維性丘疹,毛包周囲線維腫 7.Angiokeratoma 被角血管腫 8.Angiolymphoid hyperplasia with eosinophilia,Epithelioid(histiocytoid)hemangioma,Pseudopyogenic granuloma 好酸球性血管リンパ球増殖症,類上皮血管腫 9.Angiomatoid fibrous histiocytoma 血管腫様線維性組織球腫,類血管腫型線維性組織球腫 10.Angiosarcoma,Malignant angioendothelioma 血管肉腫,脈管肉腫,悪性脈管内皮細胞腫 11.Apocrine cystadenoma ;Eccrine hidrocystoma アポクリン嚢胞腺腫;エクリン汗腺嚢腫 12.Apocrine fibroadenoma,Apocrine syringofibroadenoma アポクリン線維腺腫,アポクリン汗管線維腺腫 13.Atopic dermatitis アトピー性皮膚炎 14.Atypical fibroxanthoma 異型線維黄色腫 15.Basal cell carcinoma(BCC),Basal cell epithelioma,Basaliom,Trichoblastic carcinoma 基底細胞癌,基底細胞上皮腫,基底細胞腫 16.Blastic plasmacytoid dendritic cell neoplasm 芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍 17.Blue nevus 青色母斑 18.Botryomycosis ボトリオミコーシス 19.Bowen's disease,Squamous cell carcinoma in situ Bowen(ボーエン)病 20.Bullous congenital ichthyosiform erythroderma,Bullous ichthyosis,Epidermolytic ichthyosis 水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症,水疱性魚鱗癬,表皮融解性魚鱗癬 21.Bullous pemphigoid,Pemphigoid 水疱性類天疱瘡,類天疱瘡 22.Calciphylaxis,Calcific uremic arteriolopathy カルシフィラキシー,カルシフィラクシス 23.Cheilitis granulomatosa,Oro-facial granulomatosis,Melkersson-Rosenthal syndrome 肉芽腫性口唇炎,Melkersson-Rosenthal(メルカーソン・ローゼンタール)症候群 24.Cholesterol embolism,Cholesterol embolization syndrome コレステロール結晶塞栓症 25.Chromoblastomycosis,Chromomycosis 黒色分芽菌症,クロモミコーシス 26.Chronic actinic dermatitis,Persistent light reaction,Actinic reticuloid 慢性光線性皮膚炎,持続性光線反応,光線性類細網症 27.Churg-Strauss syndrome,Allergic granulomatosus angiitis,Eosinophylic granulomatosis withpolyangiitis Churg-Strauss(チャーグ・ストラウス)症候群,アレルギー性肉芽腫性血管炎,好酸球性多発血管炎性肉芽腫症 28.Clear cell acanthoma ,Pale cell acanthoma 澄明細胞(性)棘細胞腫 29.Cutaneous B-cell lymphoma (Marginal zone lymphoma,Follicle center lymphoma,Diffuse large B-cell lymphoma) 皮膚(原発)B細胞リンパ腫(濾胞辺縁帯リンパ腫,濾胞中心リンパ腫,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫) 30.Cutaneous plasmacytosis,Cutaneous and systemicplasmacytosis 皮膚形質細胞増多症,皮膚・全身性形質細胞症 31.Darier's disease,Keratosis follicularis Darier(ダリエー)病,毛孔性角化症 32.Dermatofibroma,Fibrous histiocytoma,Histiocytomacutis 皮膚線維腫,線維性組織球腫,皮膚組織球腫 33.Dermatofibrosarcoma protuberans 隆起性皮膚線維肉腫 34.Dermatomyositis 皮膚筋炎 35.Desmoplastic Spitz nevus 線維硬化性Spitz(スピッツ)母斑,線維形成性Spitz(スピッツ)母斑 36.Desmoplastic trichoepithelioma 線維硬
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