著者紹介
ヴィトルト・シャブウォフスキ(著者):1980年生まれ。25歳のとき、ポーランドの日刊紙Gazeta Wyborczaの週刊付録Duzy Formatで最年少レポーターに抜擢され、キューバや南アフリカ、アイスランド等を取材。EUに殺到する不法移民を扱った特集記事が〈欧州議会ジャーナリズム賞〉を受賞。1943年にウクライナ蜂起軍がポーランドで行なった大虐殺に関するルポルタージュDom pełen Ukraińcówを2013年に刊行し、〈ポーランド通信社リシャルト・カプシチンスキ賞〉を受賞。2014年に出版した本書は、2019年に英語版が刊行され、Edward Stanford Travel Writing Awardsにノミネートされた。ワルシャワ在住。
芝田 文乃(翻訳):1964年、神奈川県生まれ。筑波大学芸術専門学群卒業。ポーランド語翻訳者、写真家、エディトリアル・デザイナー。訳書にレム『高い城・文学エッセイ』『短篇ベスト10』、コワコフスキ『ライロニア国物語』(以上共訳、国書刊行会)、ムロージェク『所長』『鰐の涙』(以上、未知谷)、グラビンスキ『動きの悪魔』『狂気の巡礼』『火の書』『不気味な物語』(以上、国書刊行会)など。
内容
自由とは新たな挑戦だ
ブルガリアに伝わる「踊る熊」の伝統の終焉と、ソ連崩壊後の旧共産主義諸国の人々の声。リシャルト・カプシチンスキをはじめ、優れたノンフィクション文学の書き手を輩出してきた国ポーランドの気鋭による異色のルポルタージュ。
第一部では、2007年にブルガリア最後の「踊る熊」たちがいかにして動物保護団体に引き取られたか、そして生業を奪われた飼い主のロマたちが陥った困難な状況について、さまざまな立場の関係者を取材する。第二部ではソ連崩壊以降のおもに旧共産主義諸国(キューバ、ポーランド、ウクライナ、アルバニア、エストニア、セルビア、コソボ、グルジア、ギリシャ)を訪ね、現地の人々のさまざまな声に耳を傾ける。そこに共通するのは、社会の変化に取り残されたり翻弄されたりしながらも、したたかに生き抜こうとするたくましさである。
第一部と第二部はそれぞれ同じ章立て。共産主義の終焉から資本主義に移行しきれない国、またはEUに組み込まれたことで経済危機に陥った国の人々の混乱と困惑を、隷属状態から逃れても「自由」を享受しきれない「踊る熊」たちの悲哀に見事になぞらえ、重ね合わせている。