著者紹介
アニエス・ポワリエ(著者):1975年パリ生まれのジャーナリスト、作家。パリ政治学院で政治学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで国際史を学ぶ。「ラジオ・フランス」のプロデューサーを務め、「ル・モンド」(仏)、「ガーディアン」(英)、「ニューヨーク・タイムズ」(米)等に定期的に寄稿。カンヌ映画祭の英国映画関連の顧問、2015年にはBBCの討論番組「デイトライン・ロンドン」のパネリストを務める。Les nouveaux Anglais : clichés revisités (2005), Touché: A French woman's take on the English (2006)など4冊の著書があり、2018年に刊行された本書は「タイムズ」と「テレグラフ」の「2018年の良書」に選ばれ、数か国語に翻訳されている。現在、パリとロンドンを拠点に活躍中。
木下 哲夫(翻訳):1950年生まれ。京都大学経済学部卒。翻訳家。訳書に、S・N・バーマン『画商デュヴィーンの優雅な商売』(筑摩書房)、T・シュヴァリエ『真珠の耳飾りの少女』、A・ベイリー『フェルメール デルフトの眺望』、R・シャタック『祝宴の時代』、J・リチャードソン『ピカソⅠ』『ピカソⅡ』『ピカソⅢ』(以上、白水社)、C・トムキンズ『マルセル・デュシャン』、S・プリドー『ムンク伝』(以上、みすず書房)、D・ホックニー『秘密の知識』(青幻舎)、『ジョナス・メカス ノート、対話、映画』(せりか書房)、J・E・B・ブレズリン『マーク・ロスコ伝記』(ブックエンド)など多数。
内容
再建の日を待つ唯一無二の大聖堂
2019年4月15日の宵、著者はパリのアパルトマンから築850年の大聖堂が焰に包まれるのを目撃する。火災を伝える写真や映像はメディアを通してたちまち拡散し、世界中の人々の心を激しく揺さぶった。
ここにひとつの疑問が浮上する。ノートルダムはなぜ、フランスという国家を象徴する存在となりえたのか。その答えを求めて、著者は大聖堂の歴史に刻まれた決定的瞬間に目を向ける。礎石の置かれた1163年に遡り、当初の建設を取り仕切った司教と大聖堂を設計した無名の建築家たちの物語から第一章が始まる。続く章では、アンリ四世のカトリックへの改宗、フランス革命、ナポレオンの戴冠式など、国家と王家にとってノートルダムの重要性が増していく歴史的経緯が語られる。
ヴィクトル・ユゴーの小説が保存修復への機運を高め、ヴィオレ=ル=デュクの画期的な修復工事とオースマンによる改造計画を経て、1944年のパリ解放の日、ノートルダムはふたたび歴史の重要な舞台となる。フランスの栄光と苦悩を見つめてきたノートルダムの物語は、そこに集い、献身的に携わり、未曽有の危機から救おうとする市民たちの物語でもある。