臨床光皮膚科学
内容
目次
【序文】 我々人類はその起源から太陽のもとで生活してきました.人類だけでなく,地球上の生物が太陽光のもとで生を営んでいます.太陽光を完璧に避けて生活することは不可能であり,太陽光の存在を織り込みながら生命は進化してきました. 私たち皮膚科医は太陽光によって生じる日焼け,しみ,皮膚がん,光線過敏症などにも日々の診療で携わっています.太陽光から有用な波長の光を取り出して,さまざまな皮膚疾患に対する治療やがんの診断といった医療応用も盛んに行われるようになっています. 光の人体への影響を理解して予防策を講じたり,安全で有効な光線治療法や診断法を確立するためには,光の生体への影響についてあらゆる角度(個体レベル,細胞レベル,またDNA・蛋白・脂質レベル)から理解することが必要です.そのためには,光生物学・光化学の知識のみでなく,その周辺領域の知識を得ることも重要ですが,太陽光線は物理の法則に基づいているため,その作用を知る最初のステップとして,生物学だけでなく多少の物理や化学の知識も必要です.この点が初学者にはとっつきにくいのか,光皮膚科学の領域は必ずしも皮膚科医の理解が進んでいない分野でもあります. そのような状況にいる皮膚科医を中心とした関連領域の方々から,光によって生じる皮膚の変化を生理的な面,病的な面,そして最新科学の視点から俯瞰し,学ぶ機会を持ちたいという声が上がってきたのを受けて,2018(平成30)年に日本フォトダーマトロジー学会が設立されました.本学会は,太陽光に対する皮膚の応答とその正常からの逸脱による皮膚疾患,ならびに光線治療を研究テーマとしており,光線過敏症,光の治療への応用などについて,皮膚科医が日常診療で必要とする知識を得て病態への理解を深めるとともに,皮膚科領域に光皮膚科学を広く根付かせることを目的としています.また,一般の方から受ける太陽紫外線に対するさまざまな質問に対する正確で適切な答えを探求する場としても活動を続けています. 皮膚は体表に露出した臓器ですので,太陽光の影響が大きく,光老化,光線による疾患,光発がん,光防御といった光線に関わる知識は皮膚科医が実臨床を行ううえで必須ですが,これらを体系立てて解説した書籍は近年見当たりませんでした.そこで,光の皮膚への影響から,光を原因とする疾患のメカニズム・診療実践,光による治療(光線治療,レーザー治療)までを正しく理解でき,科学的な皮膚診療に寄与する書籍とすることを目指し,日本フォトダーマトロジー学会の活動の一環として,本学会理事の編集により現在の光皮膚科学の臨床実践をまとめた成書として本書は企画されました. 現代のネット社会にあって「なぜいま書籍なのか?」と思われるかもしれません.インターネットの便利さを否定するものではありませんが,玉石混交のネット情報から真に重要で正しい情報を選ぶにはそれなりの基礎知識と見識が必要で,初心者の学習にはネット情報が不向きであることも事実です.そういう面から,一つの領域に関し体系立って一定のポリシーのもとに取捨選択された知識を入手できることが書籍を紐解く醍醐味だと思い,本企画は書籍という形式を採用いたしました.ぜひ本書を通読して現代の光皮膚科学の流れを知るとともに,診療で疑問が生じた際は座右の書としてこの本でヒントを得ていただければ幸いです. 本書の刊行にあたり,これまでに光医学関連の研究グループにおいてご指導ご鞭撻賜った諸先輩に深甚なる謝意を表するとともに,本書の企画,立案から諸事万端多大なご協力をいただいた南江堂に深謝いたします. 2021年5月 編集代表 錦織千佳子 【目次】 総 論 A 太陽光線と皮膚 1 太陽光線 1)可視光線(400~800 nm) 2)紫外線(1~400 nm) 3)近赤外線(300~760 nm) 4)赤外線(800~1,000 nm) 2 太陽光線の意義 1)体内時計と日光 2)可視光線の作用 3)赤外線の作用 4)紫外線の作用 5)太陽光線と健康 6)紫外線とビタミンD 7)疾患と太陽光線 8)日光と近視 9)非可視光線の役割 3 光生物学 1)光物理学 2)光化学 3)分光法 4)光増感 5)分子および細胞に対する紫外線照射効果 6)環境光生物学 7)光医学 8)紫外線放射線光生物学 9)視覚 10)光形態形成 11)光運動 12)光合成 13)生物発光 4 太陽光線と皮膚:マクロの変化 1)紫外線と皮膚:光が皮膚の細胞に届くまで 2)紫外線紅斑と最少紅斑量(MED) 3)紫外線に対する生体の防御機構 4)紫外線によるビタミンD3の活性化 5)各波長域別光線による皮膚反応 B 紫外線による皮膚への生物作用:急性および慢性の変化 1 紫外線による急性炎症:細胞生物学的,分子生物学的観点から 1)紫外線紅斑の発生機序 2)紫外線紅斑を引き起こす化学伝達物質 2 紫外線免疫 3 分子レベルでの損傷と修復 1)損傷 2)DNA修復 4 紫外線照射による慢性の変化(光老化):臨床面から 5 紫外線と発がん 1)紫外線特異的変異:UV signature mutation 2)酸化的DNA 損傷 3)炎症と皮膚がん 4)免疫抑制と皮膚発がん 5)紫外線発がんにおける薬剤の関与 6)人工光源のヒトへの影響 7)紫外線皮膚発がんにおける予防・治療 6 光老化の基礎:しみ,しわの形成メカニズム 1)光老化皮膚の特徴 2)光老化皮膚におけるしみの形成 3)光老化皮膚の表皮および真皮の特徴 C 可視光線・近赤外線による皮膚への生物作用 1 可視光線の皮膚への作用 1)可視光線の医学的応用 2)可視光線による皮膚のアンチエイジング治療 3)可視光線による光老化促進 4)可視光線の眼への作用 2 赤外線の皮膚への作用 1)日常生活における赤外線 2)赤外線の医学的応用 3)赤外線による皮膚のアンチエイジング作用 4)近赤外線による光老化促進 5)近赤外線の眼への作用 D 紫外線・可視光線の眼に対する生物作用 1)眼の光透過性 2)紫外線,可視光線の照射に起因する眼疾患 3)近視 各 論 A 光線過敏症の臨床的特徴とアプローチ 1 分類:真の光線過敏症と日光によって増悪する疾患 B 疾患各論 1 薬剤による光線過敏症 2 日光蕁麻疹 3 多形日光疹 4 chronic actinic dermatitis 5 ポルフィリン症総論 6 ポルフィリン症各論 A.先天性赤芽球性ポルフィリン症(CEP) B.赤芽球性プロトポルフィリン症1型(EPP1) C.赤芽球性プロトポルフィリン症2型(EPP2) D.X 連鎖赤芽球性プロトポルフィリン症(XLEPP) E.晩発性皮膚ポルフィリン症(PCT) F. 肝性赤芽球性ポルフィリン症(HEP) G. 急性間欠性ポルフィリン症(AIP) H. アミノレブリン酸脱水酵素欠損性ポルフィリン症(ALADP) I. 多様性ポルフィリン症(VP) J. 遺伝性コプロポルフィリン症(HCP) 7 色素性乾皮症(XP) 8 Cockayne 症候群 9 紫外線高感受性症候群(UVSS) 10 硫黄欠乏性毛髪発育異常症(TTD) 11 種痘様水疱症 12 光線によって悪化する疾患 A.ペラグラ B.全身性エリテマトーデス(SLE) C 遮光対策とサンスクリーン剤 1 遮光の種類と方法 2 日常生活における遮光の基本 3 外用による遮光,サンスクリーン剤 4 サンスクリーン剤の評価とその方法 5 サンスクリーン剤の副作用と使用上の注意 6 遮光とビタミンDのバランスの取り方 D 光線を用いた治療 1 皮膚疾患に対する光線療法の歴史と未来 2 PUVA 3 ナローバンドUVB 4 エキシマライト 5 UVA1 6 光線力学療法(PDT)
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