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【序文】 　流出路再建術の代表的術式であるトラベクロトミーを小児緑内障のみに行ってきた欧米とは異なり，わが国では本手術操作が成人の緑内障に対しても有効であることが先人の努力により示されてきました．濾過手術の代表的術式であるトラベクレクトミーとの比較において，トラベクロトミーは濾過胞に依存しないため過度の眼圧下降や長期的な感染の懸念がないことが利点である一方で，眼圧下降効果に劣ることが主たる欠点とされてきました．加えて，従来のトラベクロトミーには，眼外法（ab externo 法）により行われるシュレム管の同定がしばしば困難で手術難度が高く，また眼表面への侵襲は決して小さくないという大きな欠点がありました．これらの点は，術者にとっても患者にとっても心理的・実際的な障壁となり，トラベクロトミーの施行時期を遅らせる主たる要因となっていました． 　近年，眼内法（ab interno 法）により隅角にアプローチする一連の緑内障手術が登場し，臨床現場での施行回数が爆発的に増えています．これらの緑内障手術（glaucoma surgery）は総称してMIGS と呼ばれます．MIGS は，小切開（micro-incisional）であるために眼表面に対して低侵襲（minimally-invasive）であることに加えて，初期治療として行われる薬物やレーザー治療と進行した緑内障に行われる濾過手術の間を，真に“適時的”につなぐことができる中間適応（middle indication）手術を示す概念であると捉えると，その特徴を理解しやすいと思います． 　MIGS は，眼外法手術と比較して強膜フラップの作成や縫合が不要であるため，確かにその技術難度は低いといえます．一方で，その施行には隅角プリズムによる観察下で精密な眼内操作が必須であるため，これまで手術を行ってきた術者にとっては新たな技術の習得が必要となりました．また，MIGS の適応となる患者数の増加により，緑内障診療を中心として行っている術者に加えて，より広い範囲の術者や眼科手術の経験が浅い術者が施行する機会も増えると予想されます．本書は，まさにこれからMIGS を開始する，あるいは開始したばかりの術者の学習を念頭に置いて構成されています．総論では，MIGS 術式の種類，適応，手術に必要な器具とセッティング，代表的な合併症が解説されています．各論では，わが国を代表する緑内障術者のノーカット版手術動画とともに，患者説明の要点，周術期の投薬・管理，使用した器具や顕微鏡・術者のポジショニングが紹介されています．加えて，それぞれの術者の考え方や哲学が，コメントやコラムとして記載されていますので，十分な経験を有する術者にとっても，本書の中に新たな発見が隠れているかもしれません．本書が，本書を手に取られた術者を通して，緑内障と闘われる患者への安全で効果の高い手術治療提供の一助となることを願います． 　2022 年3月島根大学眼科　谷戸　正樹 【目次】 Ⅰ章　総論 　1 術式の分類，成績，適応 　2 必要な器具（手術用隅角鏡，顕微鏡セットアップ等） 　3 代表的な合併症とその対策 Ⅱ章　各論 　1 iStent 白内障同時手術 　　1　頭側に座って耳側角膜切開で白内障手術，顕微鏡を傾斜させずに鼻側にステント留置 　　2　ダブルフックで瞳孔拡張，11 時角膜切開白内障手術，耳側サイドポートからステント留置 　2 iStent inject W 白内障同時手術 　　1　術中EVFW 分類（上強膜静脈灌流）施行 　　2　トーリックIOL 挿入（Verion 使用），ステント抜去・再挿入 　3 トラベクトーム白内障同時手術 　　1　一手法による白内障手術，シリコーン眼内レンズ挿入 　4 TrabEX＋白内障同時手術 　　1　 Zepto による前嚢切開，術中フロッピー虹彩症例 　5 カフークデュアルブレード白内障同時手術 　　1　前嚢切開まで行った後に緑内障手術，TVG サージカルゴニオレンズ使用 　　2　白内障手術を行った後に緑内障手術，ヒルサージカルゴニオプリズム使用 　6 マイクロフックトラベクロトミー白内障同時手術 　　1　マイクロフックトラベクロトミー原法による耳鼻側隅角切開 　　2　右眼）白内障→緑内障→白内障 　　3　左眼）白内障→緑内障→白内障，顕微鏡を傾斜させずに耳鼻側切開，谷戸氏マイクロフック庄司ed. 使用 　7 スーチャートラベクロトミー眼内法白内障同時手術 　　1　Hemi-GATT，モリゴニオトミーレンズ使用 　　2　原発閉塞隅角緑内障に対する手術，隅角癒着解離術併用，マイクロフックで切開追加 　　3　2方向への糸挿入による全周切開