皮膚科診療秘伝の書
内容
目次
【序文】 皮膚科は取り扱う疾患が他科に比べて多いと思われますが,私自身三つの大学と一つの病院で勤 務し多くの先生方とご一緒する中で様々な秘技を目にする機会に恵まれております.ただ,医師と しての年数が経つにつれて気軽に他の先生の外来や診療を見学できる機会が少なくなったのを残念 に感じておりました.それでもこれまでは,学会や研究会の懇親会の場で,講演や発表の中には出 てこない裏技の一端をお伺いできることもありましたが,このところそのような機会もなくなって しまいました.そのため,本書の企画についてお声掛けをいただいたとき,「この企画は自分のた めにも必ず形にしなければいけない」と考えお引き受けしました. これまでの書籍にないものを私なりに分析しつつ,文字数を気にせずできるだけ自由に記載いた だくユニークな形式で,堅苦しい書籍ではなく,私自身がこういう本を読みたかった,診療室に置 いておきたい一冊にすることができたと自負しております. そして,すでにご自身の書籍を数多く上梓されている先生方,ご講演の中で秘技を披露されるこ との多い先生方にもあえてご執筆を依頼しました.本書が多くの秘伝にまとめて触れることができ る機会になり,各先生方の書籍を手に取ったり講演会に参加したりするきっかけになればと考えた からです.通常よりも面倒な執筆依頼をお受けいただいた先生方,本当にありがとうございます. この場をお借りして改めて御礼申し上げます. 2022 年 4 月 神人 正寿 「秘伝の書」をお届けします.世の中には教科書にも載っていないし,エビデンスもないかもし れないけれども,臨床の経験を積む中で得た診断法,議論があり反論もあるが時として非常に役に 立つ治療法など,表には出てこない,堂々と語られることのない「秘伝」の技法がたくさんあるは ずです.それらは真っ当な教科書や雑誌ではなかなか取り上げられず,一人の先生の頭の中だけに あり他の人には受け継がれなかったり,受け継がれても一つの医局の中だけでの伝統芸能みたいな ものだったりするはずです.思い出してみますと,私の恩師である故・玉置邦彦東京大学名誉教授 はグリセオフルビンとマクロライドの抗炎症作用に興味を持ち,種々の炎症性疾患に使用されてい ました.それらが埋もれたままではもったいないと思って企画したのが本書です.全国の「秘伝」 を集めてみたらおもしろいと思いませんか? きっと,なるほど,それはいい,思いつかなかった, と思えるものに出会えるはずです.ただし,本書は普通の教科書とは違います.ここに書かれてい ることは,読者の先生方がそれぞれに判断して自己責任で利用してください.その結果については 編者も筆者も責任を負いません.免責事項として大きく掲げさせていただきます.そうでないと 「秘伝」なんて書けません.Evidenceがいわれる現在ですが,だからといってexperienceを否定 するものではありません.むしろ両者をうまく取り入れた者こそ,最高の医療ができるのです. Evidence集というのは時に目にしますが,experience集というのは記憶にありません.本書は そのexperience集です.ぜひご堪能ください. 2022 年 4 月 常深 祐一郎 【目次】 1、手湿疹 秘技その一 問診で背景や経過を見極める 秘技その二 手湿疹を臨床型別に考える 秘技その三 Protein contact dermatitis の概念を知る 秘技その四 アレルギー性接触皮膚炎の関与を疑い,原因物質を突き止める 秘技その五 全身性接触皮膚炎による手湿疹である可能性を考慮する 2、接触皮膚炎 秘技その一 パッチテスト前の問診に時間をかけない 秘技その二 製品パッチテストの結果は偽陰性の可能性を疑う 秘技その三 歯科金属をむやみに除去しない 3、アトピー性皮膚炎 秘技その一 皮膚炎は速やかに抑える 秘技その二 適切な外用方法を実践する 秘技その三 外用時間は短く 秘技その四 初診時に血清TARC値を測定する 秘技その五 看護師などのメディカルスタッフから説明してもらう 秘技その六 診察時間短縮のためにPOEMを用いる 4、脂漏性皮膚炎 秘技その一 セブメーターを用いる 秘技その二 菌を調べる 秘技その三 何度でも鑑別診断する 秘技その四 治療の奥の手を使う 5、蕁麻疹 秘技その一 日本皮膚科学会『蕁麻疹診療ガイドライン2018』の病型分類を日常診療で使う 秘技その二 コリン性蕁麻疹患者を納得させる話術を知る 秘技その三 蕁麻疹の病勢コントロールの把握にはUrticaria Control Test(UCT)を使う 秘技その四 蕁麻疹専用の問診票を用いる 秘技その五 アナフィラキシー(呼吸器症状,消化器症状)を合併する蕁麻疹患者は入院精査のできる施設に紹介する 6、痒 疹 秘技その一 結節性痒疹はまずできはじめの病変で勝負して結節の数を増やさない 秘技その二 ステロイド外用の効かない結節性痒疹ではランクを上げるより,ヘパリン類似物質クリームや病変の被覆に徹する 秘技その三 ステロイド局注や液体窒素療法の後にすぐ再燃する結節性痒疹にはしばらく活性化ビタミンD3軟膏や被覆材を使用する 秘技その四 どうにもコントロールできない多形慢性痒疹ではステロイド内服よりもシクロスポリンを選ぶ 7、皮膚瘙痒症 秘技その一 まず皮膚瘙痒症とは何かを理解する 秘技その二 ドライスキンの有無をみよ 秘技その三 背景疾患の影響を考える 秘技その四 薬歴を確認する 秘技その五 痒いときは搔く代わりに塗るべし 秘技その六 「痒みを止める治療である」と患者に伝えよう 8、結節性紅斑 秘技その一 結節性紅斑の診断はフローチャートを利用して合理的かつ効率的に行う 秘技その二 特発性,感染誘発性結節性紅斑の治療では,少量のステロイド内服を併用する 秘技その三 非典型的な皮疹を呈している場合には,生検は2箇所より採取する 秘技その四 上肢まで皮疹を認める場合には全身性の疾患を疑う 9、薬 疹 秘技その一 Stevens-Johnson症候群(SJS),中毒性表皮壊死症(TEN)を疑ったら迅速病理検査を行う 秘技その二 「逆パンダ」をみたら血清TARC値とヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)DNA量を調べる 秘技その三 播種状紅斑をみたら薬疹,ウイルス性発疹,その他の中毒疹を考える 10、血管炎 秘技その一 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(別名Churg-Strauss症候群)をまず鑑別する 秘技その二 リベド様血管症にだまされるな 秘技その三 Palpable purpura の盛り上がりを診断せよ 秘技その四 Chapel Hill 分類2012(CHCC2012)とDermatologic Addendum to the CHCC2012(D-CHCC)に惑わされるな 11、Behçet病 秘技その一 Behçet病のアフタ性口腔潰瘍は,大部分で初発症状として,診断以前より生じる 秘技その二 Behçet病の結節性紅斑は皮膚症状のなかで頻度が高く,確定診断に有用である 12、末梢動脈疾患による潰瘍 秘技その一 虚血のサイン,red ring sign を見逃すな 秘技その二 血行障害が改善されているのに傷が塞がらない場合は単純X線,MRI検査を行う 秘技その三 足趾潰瘍の血流評価には足関節上腕血圧比(ABI)より皮膚灌流圧(SPP)や足趾上腕血圧比(TBI)を用いる 秘技その四 慢性皮膚潰瘍の不良肉芽は放置せず,削って血を出す 13、エリテマトーデス 秘技その一 エリテマトーデスは,全身症状を認めない皮膚エリテマトーデス(CLE)と全身性エリテマトーデス(SLE)に大別する 秘技その二 頬部紅斑かどうか迷ったら耳介をみる 秘技その三 抗核抗体や抗DNA抗体の検査法の選択基準を習得する 秘技その四 皮膚生検には目につきにくい皮疹を選択する 秘技その五 SLEの治療方針には疾患活動性指標SLEDAI(SLE Disease Activity Index)を意識する 秘技その六 SLEにおいても臓器障害をなるべく少なくするために寛解を意識する 14、強皮症 秘技その一 米国リウマチ学会と欧州リウマチ学会の分類基準(2013 ACR/EULAR Classification Criteria)を使う 秘技その二 手指の皮膚硬化の早期病変では「つまみにくい」「腫れぼったい」「むくみ」というイメージをもって問診・触診する 秘技その三 ダーモスコピーを活用する 秘技その四 診察時には患者の手をとって,くまなくじっくりと観察する 秘技その五 Raynaud現象の有無はスマートフォンの写真で確認する 秘技その六 「限局皮膚硬化型の全身性強皮症」と「限局性強皮症」の違いに注意する 秘技その七 皮膚硬化に対する治療の適応症例を見極める 秘技その八 手を温める工夫(生活指導)を提案する 秘技その九 末梢循環障害に対する治療法を早期に実施する 秘技その十 日常診療でさまざまな臓器病変を精査し,各専門領域の他科と協力して精査,治療を行う 15、皮膚筋炎 秘技その一 圧迫部位の紫紅色斑をみて抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎と診断する 秘技その二 背部の紅斑を俯瞰して天使の羽徴候(angel wings sign)をみたら,抗SAE抗体陽性皮膚筋炎を疑う 秘技その三 抗ARS抗体陽性例では積極的に指から皮膚生検を行う 16、熱 傷 秘技その一 やっぱり!小範囲であっても急性期の熱傷創には外用薬による局所治療を行う 秘技その二 小児の熱傷処置の鎮痛・鎮静には塩酸ケタミンを用いる 秘技その三 ドレッシング材は滲出液の量,粘稠度で決める 17、凍 瘡 秘技その一 凍瘡治療にステロイド内服を行う 秘技その二 成人の凍瘡はSjögren症候群やエリテマトーデスを考える 秘技その三 凍瘡は予防が最も重要で,外出時に手袋,靴下,帽子,耳当ての他にマスクや目出し帽,人工炭酸泉浴も有用である 18、褥 瘡 秘技その一 デブリードマンは無理をしない 秘技その二 外用薬は基剤で使い分ける 秘技その三 外用薬の混合は時に有用である 秘技その四 診療・介護に有用な用具はたくさんある! 秘技その五 在宅でのネットワークの活用と連携の構築を進める 19、水疱症 秘技その一 中高年者に複数の水疱・びらんがある場合は,DPP-4阻害薬服用の有無を確認する 秘技その二 水疱性類天疱瘡にはストロンゲストクラスのステロイド外用薬を積極的に活用する 秘技その三 低リスク群の粘膜類天疱瘡はステロイド含嗽と抗菌薬内服で治療する 秘技その四 粘膜類天疱瘡では症状のない頬粘膜の生検で自己抗体を検出する 秘技その五 アザチオプリン投与開始前にNUDT15遺伝子多型を確認する 秘技その六 血中自己抗体がCLEIA法で陰性でもELISA法で陽性になることがある 20、掌蹠膿疱症 秘技その一 手掌足底の膿疱をみてもすぐに掌蹠膿疱症と決めつけない! 秘技その二 患者への掌蹠膿疱症についての説明方法を習得する 秘技その三 確定診断後の患者と向き合う心構えを身につける 秘技その四 治療の実際 21、角化症 秘技その一 魚鱗癬ではまずは表皮の脆弱性の有無を確認する 秘技その二 魚鱗癬では正常化皮膚領域を探す 秘技その三 魚鱗癬では手掌を診察する 秘技その四 掌蹠角化症では皮疹の分布パターンを把握する 22、乾 癬 秘技その一 とりあえずアプレミラストをゆるく使ってみる 秘技その二 シクロスポリン内服中に血圧が上がったら降圧薬も処方し,合併症を放置しない 秘技その三 メトトレキサート内服によりAST/ALTが多少基準値を逸脱しても,すぐに中止しなくてよい 秘技その四 エトレチナートを古い薬と馬鹿にするべからず 秘技その五 生物学的製剤を使用する際には,患者の自己負担を軽減できる制度や方法を最大限活用する 秘技その六 外用薬をうまく使う 23、胼胝・鶏眼 秘技その一 痛みなく削る 秘技その二 靴の見直しを行う 24、白 斑 秘技その一 タクロリムス軟膏外用と光線療法を併用する 秘技その二 小児への光線療法の導入において照射回数の目安を設定する 秘技その三 JAK阻害薬デルゴシチニブ(コレクチム®軟膏)の外用を検討する 秘技その四 急速に拡大・新生する白斑に週末ステロイド内服療法を行う 25、顔面の色素斑(老人斑,肝斑,後天性真皮メラノサイトーシス,扁平母斑) 秘技その一 診断を正しく確定するコツを覚える 秘技その二 診断と方針を患者に理解させる 秘技その三 各疾患に使える治療法を1個以上もつ 秘技その四 レーザートーニング・ピコトーニングは意味がないだけでなく危険であることを認識する 秘技その五 いざというときに患者を送る紹介先を確保しておく 26、多汗症 秘技その一 多汗症の発汗量は一定しないため,重症度は自覚症状で判断する 秘技その二 複数の治療選択肢を準備し,多汗症治療に備える 秘技その三 思春期前の子供の治療はよく相談し,本人の意思を確認する 秘技その四 治療への姿勢は千差万別 27、尋常性痤瘡 秘技その一 尋常性痤瘡に伴う囊腫,硬結の治療は柴苓湯内服が有効である 秘技その二 炎症後色素沈着にはグリコール酸によるケミカルピーリング,ビタミンCによるイオン導入が有効である 28、酒 皶 秘技その一 “火照り”や“flushing(一過性潮紅)”の有無を確認する 秘技その二 ダーモスコピーを活用する 秘技その三 合併症検索は治療早期に行う 秘技その四 治療経過の目安は3週間,3ヵ月,3年で考える 秘技その五 酒皶治療の成功のためには,保険診療
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