組織細胞生物学
内容
目次
【監訳者のことば】 本書の監訳を世に出して15 年が経つ.本書にも紹介されているが,私が習っていたころ組織学は主に形態が中心で,機能的なことについては,ほとんど記載はなかった.現在よりも豊かであったのは,標本をじっくり単眼の顕微鏡を使って観察することであった.照明は蛍光灯の光を集光レンズで集めた光線で,対物レンズも安価なレンズを使用していた.ただ,総論と各論の150 枚の標本は非常に綺麗で,観察しやすかったことを記憶している.まず,標本を見て切片の形からどこの組織像かを判断し,低倍,高倍と倍率を上げて観察し,全体の構造,その組織に特有な構造と主細胞は何かを同定する.現在と同じであるが,没頭することができる時間であった.当時の医学教育では,M1(学部1 年)の時に解剖学(人体解剖,組織学,発生学),生化学,生理学を学んだ.これで,各組織・細胞の形態と機能を学び,臨床の話が出てくるM3 以降に病理学の講義と実習があった.現在とはかなり変わっているものと思われる.医学教育の中で,解剖,生化学/生理,病理を十分に学習すると臨床に入ってほとんど困ることなく対応できた.面白いことに,私が経験したこの教育課程に沿った形で,本書は構成されている.すなわち,組織学と組織病理学の構造的な側面から機能的な側面をわかりやすく細胞生物学的に解説を進めている. 本書の構成は,基本組織と統合細胞生物学,生体防御,血液循環系,消化器系,内分泌系,生殖器系の6 部からなっており,第1 部はこれまでの組織学と同様に総論で,第2 部~第6 部までが各論となる.それぞれの部は,いくつかの章に分かれ,全部で23 章となる.本書の特徴は,組織形態で起きる細胞生物学的な事象をわかりやすい図解にまとめて提示している点である.この図解が,初心者にとって組織細胞の機能を知るうえで重要な手がかりになるだけでなく,組織構築のもつ意味合いをよりよく理解するのに役立つ.正常な組織細胞が,さまざまな疾患の場となる.疾患についても,形態的,細胞生物学的,さらには分子生物学的観点からの病態の説明がなされている.基本事項(Primer)としてその章に適した事柄を取り挙げて的確に説明している.代表的な病態についての説明が的確になされ,形態的・分子細胞生物学的にそして疾患の理解が進む.これらの展開は,病棟や外来での実習に大いに役立つ.各章に出てくる重要な用語については,前の版と同様にBox で説明を加えている.各章の最後に,その章で進められた基本的概念に関する図解を概念図として提示している.各章で学習した事柄の基本を基本概念として簡潔にまとめ上げている.これらの項目は,頭の整理に大いに役立つ.ここに出てくる赤字での表示が,本文の所で詳細に説明されている. 本書は,基礎医学を学ぶうえで道標となる有用な書物である.その意味で,医学以外の分野で,医科学,生命科学を学ぶ学生にとっても本書は非常に有益である.私が,研究者として独り立ちを始めた頃,当時生化学教室の助教授をされていた先生から,疾患の研究が一番大事で,その内容を理解することで多くの成果が得られ,正常とは何かもわかると教えられた.その意味で本書は組織細胞生物学の観点から疾患を理解するのに入門書として最適な成書と考える. 訳出にあたって,前版で気になっていた点の訂正に加え,多くの新たに加わった内容の訳出には平易な文章になるように心掛けた.用語は,これまでと同様に,解剖学用語集,分子細胞生物学で一般的に使われる用語に準拠した.原文で意味不明な点,新たな理解を必要とする点には訳注を入れた.極力原文に忠実であることを心掛けると共に,ごく最近の事実関係にも訳注を入れることができた.しかし,訳の不備な点もあるものと思われる.読者の方々の忌憚のないご意見が頂ければ幸甚である. 最後に本書の編集をするうえで飯塚真一氏をはじめ,エルゼビアのスタッフの方々には大変お世話になった.ここに感謝する. 2022 年11 月 内山安男 【目次】 第Ⅰ部 基本組織と統合細胞生物学 1 上皮 上皮の分類 Box 1.A 上皮の一般的特徴 概念図 上皮 基本事項1.A 線毛形成.一次線毛とヘッジホッグシグナル伝達 基本事項1.B 内皮バリアを通る白血球の移動 細胞結合 基本事項1.C ADAM,切断酵素タンパク質ファミリーの1つ Box 1.B 閉鎖結合と疾患 コネキシン変異 細胞骨格 Box 1.C 過ヨウ素酸- シッフ(PAS)反応 基本事項1.D 細胞接着分子,細胞間結合および基底膜 Box 1.D ウイスコット・アルドリッヒ症候群 基本事項1.E アクチン微小フィラメント:重合と脱重合 線毛関連疾患 Box 1.E 中心体,セントロメア(着子点)と同原体 Box 1.F バルデー・ビードル症候群 基本事項1.F 線毛内および軸索担体輸送 基本事項1.G ミオシンモータータンパク質 Box 1.G 要約:中間径フィラメントタンパク質 細胞核 ラミン病 Box 1.H いくつかのラミノパチーの臨床的観点 基本事項1.H Ran GTPase は核細胞質双方向性輸送を制御する 細胞周期 Box 1.I PAS やフォイルゲン反応 Box 1.J 好塩基球増加症と好酸球増加症 Box 1.K 細胞化学と組織化学 組織学や病理学に使われる方法 基本事項1.I 核膜の消失と再合成 Box 1.L 細胞分裂の要約 Box 1.M リー・フラウメニー症候群 医学遺伝学の基本的概念 概念図 ヒト遺伝学の用語集 Box 1.N 家系解析 概念図・基本的概念 上皮:細胞生物学 2 上皮腺:細胞生物学 上皮腺 細胞膜と細胞質膜 Box 2.A 脂質ラフト Box 2.B 糖衣 基本事項2.A 凍結割断 基本事項2.B タンパク質の合成 基本事項2.C クラスリンおよびCOP を介した小胞輸送および輸送小胞の標的輸送 Box 2.C 家族性高コレステロール血症 Box 2.D マクロオートファジーとオートファジー Box 2.E リソソームの加水分解酵素は分泌されることがある リソソーム蓄積病 基本事項2.D リソソーム 基本事項2.E リソソーム蓄積異常:テイ・サックス病とゴーシェ病 ミトコンドリア置換療法 ペルオキシソーム生合成障害(PBD) 概念図・基本的概念 上皮腺:細胞生物学 3 細胞のシグナル伝達:細胞生物学:病理学 細胞シグナル伝達機構 Box 3.A ステロイドホルモン Box 3.B ペプチドホルモン Box 3.C エイコサノイド 基本事項3.A 特殊な細胞シグナル伝達経路① 基本事項3.B 特殊な細胞シグナル伝達経路② Box 3.D 上皮間葉転換 概念図 細胞死,ネクローシス,アポトーシス アポトーシスと免疫系 アポトーシスと神経変性疾患 基本事項3.C ネクロトーシス 新生物 概念図 新生物 Box 3.E がん原遺伝子と腫瘍抑制タンパク質 概念図 がん遺伝子と腫瘍抑制遺伝子 Box 3.F がん原遺伝子とがん遺伝子 概念図・基本的概念 細胞シグナル伝達:細胞生物学:病理学 4 結合組織 エーラス・ダンロス症候群 Box 4.A コラーゲンのタイプ Box 4.B さまざまな細胞から産生されるコラーゲン Box 4.C コラーゲンの特徴 マルファン症候群 Box 4.D 異染性とは Box 4.E アレルギー過敏反応 腫瘍浸潤における分子生物学 基本事項4.A 腫瘍の浸潤と転移 脂肪組織 軟骨 Box 4.F 組織切片上での脂肪染色 Box 4.G 軟骨細胞の生存戦略 Box 4.H 損傷後の軟骨修復 Box 4.I 関節の軟骨 Box 4.J Sox9 転写因子 骨 基本事項4.B 骨芽細胞の分化にかかわる遺伝子 骨粗鬆症 大理石骨病と骨軟化症 概念図・基本的概念 結合組織 5 骨発生 骨発生(骨形成あるいは骨化) Box 5.A 骨幹端異形成症 基本事項5.A 骨折と治癒 骨折と骨修復 概念図 代謝・遺伝性骨疾患 骨疾患 関節リウマチ 概念図・基本的概念 骨発生 6 血液と造血 血液 胎児赤芽球症 Box 6.A 胎児赤芽球症における溶血 Box 6.B 血球数/μL またはmm3 Box 6.C 一次顆粒と特殊顆粒 Box 6.D 好酸球性食道炎 Box 6.E 白血球の接着不全(LAD) 白血球動員と炎症 肥満細胞,好酸球,喘息 血液凝固異常 止血と血液凝固 Box 6.F 血友病 造血 基本事項6.A 血液凝固経路 Box 6.G 貧血 白血病 鉄過剰症 基本事項6.B トランスフェリンの細胞内在化による鉄の取り込みと鉄に関連した疾患 巨赤芽球性貧血 概念図・基本的概念 血液と造血 7 筋組織 骨格筋 神経筋シナプス伝達の異常 Box 7.A 重症筋無力症 Box 7.B 筋線維の機能的な分類 筋ジストロフィ 衛星細胞と筋の修復 基本事項7.A 衛星細胞と筋の修復 心筋 心筋梗塞 平滑筋 概念図・基本的概念 筋組織 8 神経組織 Box 8.A 外胚葉 Box 8.B 脳の発生 Box 8.C 神経管閉鎖障害 Box 8.D ニューロンの移動 Box 8.E 大脳皮質 Box 8.F ニューロンによる情報伝達 Box 8.G シャルコー・マリー・トゥース病 脱髄疾患 神経変性疾患 Box 8.H アミロイド蓄積 基本事項8.A 小膠細胞(ミクログリア) Box 8.I 神経栄養因子 Box 8.J シュワノーマ(シュワン細胞腫,神経鞘腫) Box 8.K 神経伝達物質:分類 概念図・基本的概念 神経組織 9 感覚器:眼と耳 眼 Box 9.A 角膜の発生 Box 9.B 角膜移植 Box 9.C ブドウ膜(眼球血管膜) Box 9.D 白内障 Box 9.E 網膜剝離 Box 9.F 網膜 Box 9.G シナプスリボン Box 9.H 網膜色素変性症 耳 Box 9.I 赤目と結膜炎 Box 9.J メニエール病 概念図・基本的概念 感覚器:眼と耳 第Ⅱ部 器官系:生体防御 10 免疫・リンパ系 免疫・リンパ系の構成 Box 10.A トル様受容体 Box 10.B CD 抗原 Box 10.C 免疫シナプス機構 基本事項10.A T 細胞受容体と主要組織適合複合体(MHC)クラスI とクラスII の構造 Box 10.D 免疫グロブリン Box 10.E 多発性骨髄腫 後天性免疫不全症候群(AIDS) Box 10.F HIV の増殖サイクル 過敏症(アレルギー反応) 基本事項10.B 免疫系とHIV 感染 炎症 基本事項10.C 補体系 概念図 急性炎症 概念図 急性炎症と慢性炎症の比較 リンパ性器官 リンパ節炎とリンパ腫 Box 10.G リンパ液の流れと樹状細胞の移動 胸腺 Box 10.H aire 遺伝子と自己免疫 Box 10.I ディジョージ症候群 脾臓 鎌状赤血球症 無脾症 がん免疫療法 概念図・基本的概念 免疫・リンパ系 11 外皮系 皮膚の概観と種類 Box 11.A 周辺帯の疾患 Box 11.B 角化疾患 Box 11.C メラノサイトの分化 創傷治癒 Box 11.D ハンセン病 乾癬 概念図 創傷治癒 表皮の腫瘍 Box 11.E 表皮の腫瘍 Box 11.F 皮膚の血管障害 囊胞性線維症 概念図・基本的概念 外皮系 第Ⅲ部 器官系:血液循環系 12 心血管系 心血管系 大動脈瘤 Box 12.A 毛細血管内皮バリア 血管炎 基本事項12.A 血管炎 Box 12.B リンパ管疾患 浮腫 出血 アテローム性動脈硬化症 基本事項12.B 粥状動脈硬化症(アテローム硬化症) 基本事項12.C 脈管形成と血管新生 Box 12.C カポジ肉腫 血管新生と腫瘍増殖 血栓,塞栓,梗塞 概念図 心血管系病理 概念図 高血圧 高血圧 概念図・基本的概念 心血管系 13 呼吸器系 呼吸器系 Box 13.A 嗅上皮 Box 13.B 声帯ヒダ,声帯 囊胞性線維症 Box 13.C 気道粘液 Box 13.D 囊胞性線維症遺伝子 気管支肺疾患 気管支喘息 慢性閉塞性肺疾患 基本事項13.A 喘息 急性呼吸促迫症候群 肺がん 胸膜の疾患 Box 13.E 肺がん免疫療法 概念図・基本的概念 呼吸器系 14 泌尿器系 腎臓 GBM の病理 Box 14.A 急性腎障害 足細胞の損傷 基本事項14.A 腎糸球体の病理:糸球体腎炎 Box 14.B 線維芽細胞成長因子(FGF)23,腎臓とリン酸代謝 Box 14.C 浸透圧制御 基本事項14.B レニン- アンギオテンシン系(RAS) 概念図・基本的概念 泌尿器系 第Ⅳ部 器官系:消化器系 15 上部消化管 口腔粘膜の非腫瘍性および腫瘍性病変 Box 15.A 消化性潰瘍疾患(PUD) Box 15.B 胃食道逆流疾患(GERD) Box 15.C メネトリエ病 Box 15.D 自己免疫性胃炎 ヘリコバクター・ピロリ感染 基本事項15.A ヘリコバクター・ピロリ,胃の慢性炎症と潰瘍 Box 15.E ゾリンガー・エリソン症候群 概念図・基本的概念 上部消化管 16 下部消化管 小腸 Box 16.A パイエル板の発生 炎症性腸疾患 吸収不良症候群 大腸 Box 16.B Lgr5+ 腸幹細胞は粘膜固有層のFoxL1+ テロサイトによって制御される ヒルシュスプルング
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