内容
本書は、近年開始された「ビッグデータ・AI」時代の未来の医学・医療について、これからの方向を展望したものである。著者は、医学・医療の「ビッグデータ・AI」時代は、ここ2~3年のブームではなくて、今後、何十年と続き、医学・医療の基本的枠組みを変える大変革と考えている。それは、戦後始まった「抗生物質」の登場による「化学的治療医学」の第1次変革、次には「分子生命科学」の目覚ましい発展によって駆動された、分子標的医薬や抗体医薬の登場による「分子医学」の第2次変革、そして、これらに匹敵する「第3次医学・医療革命」と呼ぶべき変革である。
この変革は、ゲノムをはじめとする網羅的分子情報の発展という「生命情報ビッグデータ」と、スマートメディアをはじめとする「情報革命(DX :digital transformation)」を両輪として駆動されている。この2つの駆動力の発展は、とどまることを知らない。この2つの力に駆動されて、未来の医学・医療は、どのような体制で「最も優れた医学・医療のあり方」を実現すべきか、本書はそれを論じるものである。ここで、「深い生命情報」の知識を広く臨床医療に浸透させる「情報基盤」の確立と普及―――「次世代生命情報医学」が、その基軸となる。
本書は二部構成となっており、第一部では、次世代生命情報医学の、1つの柱である「生命情報」、すなわちゲノム情報などの網羅的分子情報が切り開きつつある「ゲノム・オミックス」医学について論じる。
第二部では、近年、驚くほど発展した医療DX(情報変革)について紹介し、未来の医学がどのように生命情報、すなわち、ゲノム・オミックス情報などの「次世代生命情報」を活用して、ゲノム医学や精密がん治療など臨床医学の質的向上に具現化する「仕方」について論じる。特に、著者の考える未来の医学・医療を迅速に知りたい読者は、5章、6章を読むことを勧める。