高齢者糖尿病診療ガイドライン<2023>
日本老年医学会, 日本糖尿病学会 著
内容
目次
【書評】 「高齢者糖尿病の診療・研究に関わる全職種の座右の書」 『高齢者糖尿病診療ガイドライン2017』が6年ぶりに改訂され,『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』として刊行された. 高齢者糖尿病および高齢者重症低血糖例の増加に加えて,糖尿病が認知症,ADL低下,フレイル,転倒,うつ等の老年症候群の危険因子となることなどが明らかになってきたことから,2015年4月に日本糖尿病学会の門脇孝理事長と日本老年医学会の大内尉義理事長(いずれも当時)の合意により,「高齢者糖尿病の治療向上のための日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会」が設置された.その結果,2017年に『高齢者糖尿病診療ガイドライン2017』が刊行された.その後,合同委員会は世代交代をしつつ今日まで活動を継続し,同ガイドライン刊行以後の諸論文,SGLT2阻害薬などの新規糖尿病治療薬,食事療法の考え方の変化なども考慮にいれた『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』が作成・刊行されたのである. 『高齢者糖尿病診療ガイドライン2017』では,「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」は個々の高齢者の年齢,ADL,認知機能を勘案して定めるべきこと,さらに重症低血糖を引き起こす恐れのあるインスリン,スルホニル尿素(SU)薬,速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)を使用している場合は甘めに設定し,かつ定めた下限値以下とならないように,言い換えると低血糖を避け安全な治療を行うべきとする考えが数々の根拠をもって示された.その結果,わが国での高齢者糖尿病におけるSU薬使用頻度,血糖コントロール目標値の下限値以下となるような症例の頻度は減少し,より安全な治療が行われるようになった.低血糖が認知症,転倒・骨折,うつなどの危険因子となることを考えると大変喜ばしいことといえる.そして,上記の考え方は本書でも踏襲されている. さらに,『高齢者糖尿病診療ガイドライン2017』では臨床上の問題はすべてCQ(Clinical Question)とされていたが,本書では推奨グレードを決める必要のない記述的なCQは「Q」,推奨グレードを決める必要のあるCQは「CQ」に分類,整理された.また,「CQ」に関して推奨グレードを決めるために実施した系統的・網羅的な文献検索に用いられたPICO,すなわちPatients/Problem/Population,Interventions,Comparisons/Controls/Comparators,Outcomesが示されており,どのような効果が,どの程度期待できるかを把握することが容易になった. 本書では,糖尿病と認知症,軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI),ADL低下,フレイルとの関係,高齢者総合機能評価の重要性,食事療法,運動療法,薬物療法に加えて,新たに「高齢者糖尿病の併存疾患」「さまざまな病態における糖尿病の治療」「高齢者糖尿病をサポートする制度」などが加えられ,より実用的な内容となっている. 本書が高齢者糖尿病の診療に関係するすべての職種の方々の座右の書として活用されることにより,高齢者糖尿病患者の健康寿命の延伸,QOLの向上が期待できる.また,本書は,高齢者糖尿病における未解決の問題が何かを俯瞰することもでき,高齢者糖尿病に関する研究を進めるうえでも有用な書である. コロナ禍の約3年半の長きにわたりガイドラインの改訂に取り組まれた稲垣暢也,荒木厚両学会代表委員をはじめとする合同委員会の委員の先生方,評価委員,執筆協力者・システマティックレビュー(SR)担当者,リエゾン委員などの諸先生方のご尽力に敬意を表したい. 臨床雑誌内科132巻5号(2023年11月号)より転載 評者●井藤英喜(東京都健康長寿医療センター 名誉理事長) 【日本老年医学会 序文】 『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』の発行にあたり,日本老年医学会を代表して一言ご挨拶申し上げます.本ガイドラインは,『高齢者糖尿病診療ガイドライン2017』の6年ぶりの改訂版になりますが,その端緒は2015年4月に「高齢者糖尿病の治療向上のための日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会」が設置されたことです.合同委員会は世代交代をしつつ現在まで継続的に,しかもプロダクティブに活動しており,合同委員会結成を英断された,当時の両学会理事長でいらっしゃる門脇 孝先生と大内尉義先生の先見の明と実行力に心から敬意を表したいと存じます. 合同委員会は,2016年に「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」を発表し,続いて2017年には『高齢者糖尿病診療ガイドライン2017』を作成,発刊しました.また,2018年と2021年には『高齢者糖尿病治療ガイド』を発刊しております.これらの成果物は,わが国の高齢者糖尿病診療に大きな影響を与えました.高齢者では,高齢者総合機能評価(comprehensive geriatric assessment:CGA)に基づいて低血糖のリスクが高い場合には血糖管理を緩くすることも許容ないし推奨されること,また,フレイルを回避するためには糖尿病であっても十分なエネルギーとタンパク質を摂取する必要があることなどは,糖尿病診療におけるパラダイム転換であり,また糖尿病学と老年医学との見事な融合であるという点で大きなインパクトがあったと思います. さて,『高齢者糖尿病診療ガイドライン2017』以降,高齢者に有用な新たな糖尿病治療が登場し,また高齢者糖尿病に関するエビデンスも蓄積したことから,合同委員会ではガイドライン改訂に向けて作業を続けてまいりましたが,今般『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』の完成にいたりました.今回のガイドライン改訂では,最新のMinds基準に則り,システマティックレビュー(SR)や執筆などを担当するメンバーも増員して新たなClinical Questionに取り組んだと聞いています. ガイドライン作成の中心を担った合同委員会のメンバー,特に代表委員の稲垣暢也先生と荒木 厚先生,また評価委員,執筆協力者・SR担当者,SRサポートチーム,リエゾン委員の皆様,そして日本糖尿病学会理事長の植木浩二郎先生に深謝申し上げますとともに,本ガイドラインが糖尿病診療に携わるすべての職種の方々に活用され,超高齢社会を迎えたわが国の高齢者の健康寿命の延伸に資することを願っています. 2023年5月 一般社団法人 日本老年医学会 理事長 秋下 雅弘 【日本糖尿病学会 序文】 わが国における糖尿病患者の割合は70%を占めるといわれていますが,個々の患者のADLや認知機能,生活環境,社会環境は多様であり,治療の目標とその方法については若年者以上に個別化が求められています.このような要請に応えるべく,日本糖尿病学会の門脇 孝前理事長と日本老年医学会の大内尉義前々理事長,樂木宏実前理事長のご主導のもと,両学会の合同委員会が設置され,2017年に『高齢者糖尿病診療ガイドライン2017』が発刊されました.その後,これをもとにより実践的な診療の手引きとして,2018年に『高齢者糖尿病治療ガイド2018』,2021年に『高齢者糖尿病治療ガイド2021』も合同委員会から発刊され,高齢者糖尿病の診療の向上に大いに貢献しています. しかしながら,『高齢者糖尿病診療ガイドライン2017』の発刊から6年を経て,この間,SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬をはじめとする新たな糖尿病治療薬の合併症などに関するエビデンスが得られたことや,糖尿病の食事療法に関する考え方の大きな転換があり,これらを踏まえた高齢者糖尿病診療ガイドラインの改訂が必要となってきました.また,幸いなことに糖尿病患者の死亡時年齢は糖尿病のない人と比べても遜色のないレベルとなっていることも明らかになってきましたが,高齢者では老年症候群をはじめとする併存疾患が糖尿病に高率に併発し,またこのような併存疾患が血糖マネジメントを困難にして,患者のQOLや寿命に大きな影響を与えており,このような併存疾患の発症・進展予防を考慮した糖尿病治療や,併存疾患存在下での適切な糖尿病治療の選択が極めて重要であることも認識されるようになりました.このような要請に応えるべく,今般再び両学会の合同委員会から『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』が発刊されることになりました.高齢者糖尿病では,ランダム化比較試験などの精度の高いエビデンスが得られにくい状況で,今回の改訂では,できる限りCQが採用されて,よりevidence-basedな内容となっており,合同委員会の先生方は大変ご苦労されたものと思います. 今回の発刊あたり,秋下雅弘日本老年医学会理事長,「高齢者糖尿病の治療向上のための日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会」の委員,評価委員,リエゾン委員,執筆協力者・システマティックレビュー担当の先生方,コメントをいただきました両学会の先生方に深く御礼を申し上げます.また,この診療ガイドラインが広く活用されて,ますます高齢糖尿病患者のQOLの向上や健康寿命の延伸につながることを願ってやみません. 2023年5月 一般社団法人 日本糖尿病学会 理事長 植木 浩二郎 【目次】 Ⅰ.高齢者糖尿病の背景・特徴 1.高齢者の定義,高齢者糖尿病の定義 Q-Ⅰ-1 高齢者糖尿病の定義は何か? 2.加齢と耐糖能 Q-Ⅰ-2 加齢とともに耐糖能異常,糖尿病は増えるか? 3.高齢者糖尿病の特徴 Q-Ⅰ-3 高齢者糖尿病はどのような特徴があるか? 4.高齢者糖尿病の合併症・併存疾患 Q-Ⅰ-4 高齢者糖尿病で加齢とともにどのような合併症・併存疾患が増えるか? Q-Ⅰ-5 高齢者糖尿病は老年症候群をきたしやすいか? 5.高齢者糖尿病の高血糖 Q-Ⅰ-6 高齢者糖尿病は食後の高血糖をきたしやすいか? Q-Ⅰ-7 高齢者糖尿病は高浸透圧高血糖状態(hyperosmolar hyperglycemic state:HHS)を起こしやすいか? 6.高齢者糖尿病の低血糖 Q-Ⅰ-8 高齢者糖尿病の低血糖にはどのような特徴があるか? 7.死亡の危険因子と個別化医療 Q-Ⅰ-9 高齢者糖尿病では糖尿病がない人と比べて死亡が増えるか? Q-Ⅰ-10 高齢者糖尿病の死亡の危険因子は何か? Q-Ⅰ-11 高齢者糖尿病の個別化医療を行うのに有用な因子は何か? Ⅱ.高齢者糖尿病の診断,病型 1.高齢者糖尿病の診断 Q-Ⅱ-1 高齢者糖尿病の診断は非高齢者と同様の診断基準を用いるか? 2.高齢者の1型糖尿病 Q-Ⅱ-2 高齢者でも1型糖尿病を新規発症するか? Q-Ⅱ-3 高齢者1型糖尿病は増加しているか? Q-Ⅱ-4 1型糖尿病の病型は高齢発症と非高齢発症で異なるのか? 3.高齢者糖尿病の診断,および管理における血糖管理指標 Q-Ⅱ-5 高齢者糖尿病の診断,および管理にはどのような血糖管理指標が有用か? Ⅲ.高齢者糖尿病の総合機能評価 1.総合機能評価 Q-Ⅲ-1 高齢者糖尿病では総合機能評価として何を評価すべきか? 2.認知機能の評価 Q-Ⅲ-2 高齢者糖尿病においてなぜ認知機能を評価する必要があるのか? Q-Ⅲ-3 高齢者糖尿病において認知機能のスクリーニングはどのように行うのか? 3.ADL・フレイル・サルコペニア・転倒リスクの評価 Q-Ⅲ-4 高齢者糖尿病においてなぜADL低下やフレイルを評価する必要があるのか? Q-Ⅲ-5 高齢者糖尿病においてADL低下やフレイルはどのように評価を行うのか? Q-Ⅲ-6 高齢者糖尿病においてサルコペニア,バランス能力,転倒リスクはどのように評価を行うのか? 4.心理状態の評価 Q-Ⅲ-7 高齢者糖尿病においてうつ状態はどのように評価を行うのか? 5.薬剤の評価 Q-Ⅲ-8 高齢者糖尿病において薬剤についてはどのようなことを評価すべきか? 6.社会・経済状況の評価 Q-Ⅲ-9 高齢者糖尿病において社会・経済状況についてはどのようなことを評価すべきか? Ⅳ.高齢者糖尿病の合併症 1.糖尿病網膜症 Q-Ⅳ-1 高齢者糖尿病では糖尿病網膜症をどのように評価するのか? 2.糖尿病性腎症 Q-Ⅳ-2 高齢者糖尿病では糖尿病性腎症をどのように評価するのか? 3.糖尿病性神経障害 Q-Ⅳ-3 高齢者糖尿病では糖尿病性神経障害をどのように評価するのか? 4.脳・心血管疾患 Q-Ⅳ-4 高齢者糖尿病の動脈硬化性疾患の特徴は? 5.末梢動脈疾患 Q-Ⅳ-5 高齢者糖尿病の足病変の特徴は? Ⅴ.高齢者糖尿病の併存疾患 1.認知症 Q-Ⅴ-1 高齢者の糖尿病または高血糖は認知機能低下・認知症の危険因子となるか? Q-Ⅴ-2 高齢者の(重症)低血糖は認知機能低下・認知症の危険因子となるか? CQ-Ⅴ-3 高齢者糖尿病における(厳格な)血糖コントロールは認知機能低下・認知症発症の抑制に有効か? 2.フレイル・サルコペニア Q-Ⅴ-4 高齢者糖尿病の高血糖はフレイル,サルコぺニアの危険因子か? Q-Ⅴ-5 高齢者糖尿病のHbA1c低値または低血糖はフレイル,サルコペニアの危険因子か? Q-Ⅴ-6 高齢者糖尿病における血糖コントロールは筋量や筋力の維持に有効か? 3.ADL低下 Q-Ⅴ-7 高齢者糖尿病の高血糖または低血糖はADL低下の危険因子か? 4.転倒 Q-Ⅴ-8 高齢者糖尿病の高血糖または低血糖は転倒の危険因子か? Q-Ⅴ-9 高齢者糖尿病における血糖コントロールは転倒の予防に有用か? 5.うつ Q-Ⅴ-10 高齢者の糖尿病や高血糖,低血糖はうつ(うつ病またはうつ傾向)の危険因子となるか? Q-Ⅴ-11 高齢者糖尿病におけるうつ(うつ病また
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