間宮家の皮膚科医
戸倉新樹 著
内容
目次
【書評】 「皮膚科学のエッセンスを詰め込んだ,まったく新しい医学小説」 本書は,間宮家三代の皮膚科医である完司,倫太郎,草太の3人それぞれの自分史を縦糸にして,皮膚科診療のエッセンスを散りばめた大変ユニークな医学小説である.とくに今までの医学小説と大きく異なるところは,単なる医学を扱った小説という範疇を超え,その内容と関連する皮膚疾患に関して,わかりやすい解説や鮮明な写真が別項でまとめられており,皮膚科学の医学書としてもコンサイスで素晴らしい出来栄えとなっている点である. 執筆者の戸倉新樹先生は,産業医科大学皮膚科学講座,浜松医科大学皮膚科学講座の教授を歴任し,皮膚科領域,とくにアトピー性皮膚疾患における世界的な権威として活躍された研究者である.私は戸倉先生とは長年,同じ大学病院で勤務しており,日頃から先生の精力的な研究活動に加え,皮膚科診療における臨床的な洞察の深さ,診療能力の高さにはいつも敬服していた.本書には,その先生の幅広くて高度な臨床スキルのエッセンスが,大変わかりやすく書かれている.また,戸倉先生は音楽にも造詣が深く,ご自身でも演奏活動(フルート)をされている.本書では音楽に関わる描写も多く,本書をいっそう魅力的なものにしている. 本書のなかで私がとくに感銘を受けた内容として,「アルゴリズムパターン」と「引き出しパターン」という皮疹のみかたがある.「アルゴリズムパターン」は病態や病変部位などから筋道を立てて診断を進める方法であり,「引き出しパターン」は主として形態学的な特徴から鑑別を考える診断法である.本書では,この二つのパターンを組み合わせて皮膚疾患の診断を進める重要性が強調されている.この二つのパターンを用いた診断法は,皮膚科だけでなく,領域を超えて有用な診断アプローチであると考えられる. 本書は間宮家三代の皮膚科医の自分史であるが,おそらく戸倉先生自身の自分史でもあろう.皮膚科学の大家であるトクラテス(戸倉先生)が長い臨床経験のなかで積み重ねて習得してきた皮膚疾患の診断法の集大成が小説という形を通して,初学者にもわかりやすく書かれている.ぜひ皮膚科医のみならず多くの他領域の臨床医,とくに若い先生方に読んでいただきたい一冊である. 臨床雑誌内科133巻1号(2024年1月号)より転載 評者●須田隆文(浜松医科大学呼吸器内科 教授) 【目次】 プロローグ アルゴリズムと引き出し 草太、環状紅斑 ◆環状紅斑 救急当直、急性発疹症 ◆麻疹様皮疹 ◆バラ疹 久美の脳転移がん、がん治療薬の新しい薬疹 ◆がん治療薬による薬疹 成長期の倫太郎、美香の紫斑 ◆下腿の紫斑 倫太郎と麗子、下腿の紅斑・硬結 ◆下腿の紅斑・硬結 大学院での研究、皮膚病変が警告する全身疾患 ◆紅皮症 ◆ポイキロデルマ 倫太郎と弓子、光線過敏症の弟 ◆光線過敏症 弓子と麗子、母親の眼周囲ブツブツと子供のシロナマズ ◆眼周囲の多発小丘疹 ◆白斑 結婚の決断、引き出しの充実 ◆白癬を思わせる皮疹 ◆多発する壊死性丘疹 ◆痛い皮膚腫瘍 ◆蝶形紅斑・顔面紅斑 留学の準備、純矢のホクロ ◆黒い皮膚腫瘍 米国での生活のスタート、ライム病 ◆リンパ球が集塊する腫瘤 草太の誕生、妊娠中の皮疹 ◆妊娠中に出現・増悪する皮膚疾患 ◆掌蹠の水疱・膿疱 米国の自然、リベドと痒疹 ◆網状皮斑(リベド:livedo) ◆痒疹 麗子との再会、粘膜疹 ◆口腔内潰瘍・びらん 流れる歳月と麗子、眼瞼腫脹 ◆眼瞼腫脹 草太の結論、黒色病変 草太の想い、慢性の紅色局面 ◆慢性の紅色局面 弓子の告白、手洗いと消毒による皮膚障害 通夜での談、皮下型リンパ腫 完司の葬儀、コロナワクチンの皮疹 ◆コロナワクチンによる皮疹 エピローグ あとがき 索引
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