内容
鳥の渡りという,測り知れないほど長く複雑な離れ業への理解は急速に進んでいる.それでも,この壮大な旅を解き明かす科学はまだ揺籃期にある.本書では,この最先端の研究に自ら携わる鳥類学者,作家であるスコット・ワイデンソールが鳥の驚異的な飛行のあとを追い,世界各地を辿る.ベーリング海では嵐に見舞われ,地中海では銃を装備した罠猟師と遭遇する.インド北東部の忘れられた片隅では,渡り鳥を狩猟していた首狩り族の末裔たちがそれを断念し,鳥類保護の歴史において前例のない成功を成し遂げているのを目撃する.気候変動による脅威が差し迫る現代において,こうした自然保護の奇跡は人類が存続するうえでかけがえのない道案内となるだろう.ここには,人類のもたらした数多くの障害にも負けず,希望を持ってはるかなる水平線の先を目指す数十億羽の鳥が,鮮やかに,敬意をもって描きだされている.