著者紹介
マーティン・キッチン(著者):1936年英国ノッティンガム生まれ。カナダのブリティッシュ・コロンビアにあるサイモン・フレイザー大学の歴史学名誉教授。The German Officer Corps, 1890-1914 (Oxford: Clarendon Press, 1968), Europe Between the Wars (London: Longman, 1988)、The Third Reich: Charisma and Community (London: Longman, 2007)、Rommel’s Desert War: Waging World War II in North Africa (Cambridge University Press, 2009)など、第二次世界大戦、冷戦、ドイツ近現代史、ヨーロッパ近現代史に関する多数の著書、論文があり、世界各国で翻訳されている。
若林 美佐知(翻訳):ウィーン大学博士課程哲学・自然科学部史学専攻修了、哲学博士。お茶の水女子大学大学院人間文化研究科比較文化学専攻博士課程修了、博士(人文科学)。主要訳書 ミュールホイザー『戦場の性 独ソ戦下のドイツ兵と女性たち』(共訳、岩波書店)、ニコラス『ナチズムに囚われた子どもたち 人種主義が踏みにじった欧州と家族 上・下』、ニーヴン『ヒトラーと映画 総統の秘められた情熱』、マッケイ『ドレスデン 空襲の惨禍と都市の歴史』(以上、白水社)
内容
「善良なるナチ」という仮面を剥ぎ取る!
本書はナチ・ドイツの帝国首都建設総監、軍需相を務めたアルベルト・シュペーア(1905-81)の伝記。生誕から、ナチの大規模建築政策と軍需生産の展開、ニュルンベルク国際軍事裁判と釈放後の活動までを追う。
首都ベルリン改造にあたっては、ユダヤ系市民が立ち退きを命じられ、建設現場や軍需工場でも、強制収容所の囚人、捕虜、外国人労働者らが「奴隷労働者」として虐待、酷使された。シュペーアがこうした「ナチ犯罪」に深く関わっていた事実を丹念に実証する。敗戦が近づく中、ヒトラーが出した「ネロ命令」(ドイツ領内のすべての軍事、交通、通信、工業、給養施設の破壊命令)には、戦後のドイツ再建を見据えて「抵抗」した。
敗戦後、シュペーアは逮捕され、主要戦争犯罪人としてニュルンベルク国際軍事裁判で裁かれた。労働者の虐待やユダヤ人絶滅政策は知らなかったと主張するが、「戦争犯罪」と「人道に対する罪」で有罪になった。
本書は、シュペーアが戦後に見せた「善良なるナチ」像の欺瞞を暴き、現代社会にも蔓延(はびこ)る「シュペーアたち」(倫理と良心に欠ける、支配層のインテリたち)の方が、「独裁者」より危険だと見なし、警鐘を鳴らす。