専門家をめざす人のための緩和医療学 改訂第3版
内容
目次
【書評】 緩和医療に携わる方必携のスタンダードテキストの最新版 医学書にはさまざまなタイプのものがあるが,本書は緩和医療分野における日本のスタンダードテキストという位置づけである.スタンダードである理由としては本領域を牽引する日本緩和医療学会が内容を吟味したうえで,記載に対する第三者の査読を徹底し,著者の個人的見解をできる限り廃して,最新の臨床研究やガイドラインを重視していることが大きいだろう.読み進めるうえでトーンが一定して心地よく安心感が大きい. 「総論」では緩和医療を取り巻く背景としての倫理学,教育,研究の現状がわかりやすく説明され,緩和医療の中心的な要素である「症状緩和」では苦痛をもたらすあらゆる症状が網羅されている.特筆すべきは,表や図の多さであり,そのどれもが一目で理解しやすく,日常診療での疑問に答えてくれるものになっていることだ.また,一般的に使われている薬剤のエビデンスの有無,海外でのスタンダードな治療法との相違点などにもふれられており,知識をアップデートすることにも役立つ. また,「腫瘍学的緊急症」では高カルシウム血症,肺塞栓症,頭蓋内圧亢進症などが取り上げられ,時に急変も避けられない緩和医療の現場でのニーズに的確に応える内容となっている.そして,「特定集団への緩和ケア」については,小児・adolescent and young adult(AYA)世代のがん治療における押さえるべきケアのポイント,さらには心不全や腎不全などのいわゆる非がんの緩和医療についてもスタンダードな治療がわかりやすく説明されている.そして,最後の章は「心理社会的・スピリチュアルな側面」と題して,緩和医療において重要な課題となる心理的反応への対応,コミュニケーションのとり方,スピリチュアルケア,advance care planning(ACP),家族へのケアと遺族へのケアがわかりやすく説明されている.とくに,「医療従事者の心理的ケア」については緩和医療のなかで同僚が燃え尽きる経験をしてきた筆者にとっても頷ける内容ばかりで,こうした知識をもって当時対応することができたらなと感じた. 以上,書籍名には「専門家をめざす人のための」という表現はあるものの,決して緩和医療の専門家だけではなく,専門家が少ない地方で緩和医療に取り組む一般診療科の医師にとっても大いに役立つ書籍と確信する.とくに筆者のように総合診療医として在宅緩和医療に取り組む医師にとっては得るものが大きいだろう.日本の緩和医療の最前線がここにあることを感じながら,日常の緩和医療の現場で大いに活用されて欲しい一冊である. 臨床雑誌内科136巻2号(2025年8月号)より転載 評者●草場鉄周(北海道家庭医療学センター 理事長/日本プライマリ・ケア連合学会 理事長)
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