糖尿病診療ガイドライン<2024>
日本糖尿病学会 著
内容
目次
【序文】 この度,『糖尿病診療ガイドライン2024』を前版の『糖尿病診療ガイドライン2019』から5年を経て刊行する運びとなった.本ガイドラインはエビデンスに基づく糖尿病診療の推進と糖尿病診療の均てん化を目的として2004年に初版『科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン』が刊行されて以来,糖尿病診療の進歩に対応して改訂し,今回,第7版となる.これまで3年ごとの刊行としていたが,新しいエビデンスが蓄積する期間の確保を考慮して,今回から5年ごとの改訂となった. 本ガイドラインは糖尿病診療に携わる臨床医が適切,かつ妥当な診療を行うための臨床的判断を支援する目的で作成されている.基本的な策定方法は,『糖尿病診療ガイドライン2019(以下「2019年版」)』を踏襲し,また『,Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020』に準拠した.策定に取り掛かる前に策定委員に対して系統的レビューの方法を含め,『Minds』準拠のガイドライン作成手順に関するレクチャーを実施し,策定法の標準化を図った. 臨床上生じる疑問のうち,エビデンスに基づく回答を導き出したいものを厳選して,臨床疑問(Clinical Question:CQ)を設定し,CQには該当しないものの,診療ガイドラインで取り上げる必要性が高い疑問は一般的疑問(Question:Q)として設定した.CQに対しては「ステートメント」,Qに対しては「ポイント」で答え,解説を加えている.CQに対するステートメントには,策定委員会での投票により決定した「推奨グレード」を付している.従来からの「グレードA(強い推奨)」,「グレードB(弱い推奨)」に加えて,今回,現在までのエビデンスでは「行うこと」も「行わないこと」も推奨するまでにはいたらない「グレードU(推奨度決定不能)」を新たに設定した. 近年の糖尿病診療の進歩,エビデンスの蓄積に対応して,CQ,Qの見直しを積極的に行った.その結果,CQ は2019年版の45項目から56項目に大幅に増加している.なかでも食事療法,妊婦の糖代謝異常において積極的にCQを取り上げ,また,薬物療法ではSGLT2阻害薬やGLP‑1 受容体作動薬といった新規薬剤の腎症や大血管症に対する有効性をエビデンスの蓄積を背景にCQとしている. 従来「付録」として記載されていた本編に含めていない項目は「,トピックス」と改めるとともに,4題から8題に拡充した.「周術期管理」といった重要課題や,最近発展してきている「糖尿病と医療IT」,糖尿病あるいは糖尿病患者へのスティグマとその解消に向けた「糖尿病とアドボカシー活動」についてもここで取り上げている.本書ではアドボカシーに関連する用語については日本糖尿病学会の方針に沿い,概念を理解することが重要であり,言葉が独り歩きすることは避けるべきである,との観点で使用している. ガイドライン策定は,「統括委員会」,「策定委員会」,「評価委員会」,「システマティックレビュー(SR)サポートチーム」,「リエゾン委員」,「外部評価委員」,「有識者委員」を組織して行った.統括委員は本ガイドラインにおける基本方針の決定,全体的な内容調整を行い,策定委員は必要に応じてSRサポートチームの支援を受けつつ文献検索,SRなどに基づいてステートメントやポイント,解説の作成を行った.策定委員とは独立した評価委員が記述の適切性,妥当性を評価し,策定委員にフィードバックした.このような繰り返しの作業を経た第五次原稿は糖尿病学会の名誉会員,功労学術評議員,学術評議員に供覧し,同時に関連学会のリエゾン委員や外部評価委員,有識者委員からも評価をいただき,多くのコメントを頂戴した.それらは策定・評価両委員長,および策定委員により逐一確認し,必要な原稿の修正を行った.多くの有益なコメントをお寄せいただいた皆様にこの場をお借りして深謝申し上げる. 現時点での知見を最大限に盛り込んで作成したこの『糖尿病診療ガイドライン2024』が今日の糖尿病診療の道標となり,わが国での糖尿病診療の向上に貢献することを期待する.同時に今後もこのガイドラインが最新のエビデンスを盛り込んで改訂を繰り返し,さらに発展していくことを祈念している. 2024年5月 「糖尿病診療ガイドライン2024」策定に関する委員会 【書評】 正しい知識が糖尿病から明日を守る このたび,待望の「糖尿病診療ガイドライン2024」が刊行された.2004年に初版「科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン」が刊行されて以降,改訂を重ねて今回が第7版となる.第6版の刊行は2019年であるが,今回より従来の3年ごとから5年ごとの改訂へと変更になった.改訂を重ねるごとに,糖尿病の現状に即して内容の充実に努められているのは,今さらここに述べるまでもない. 糖尿病の診療ガイドラインやコンセンサス・レポートは,米国をはじめとする各国から報告されているが,糖尿病の病態は世界的にみて必ずしも同じではなく,アジア人と白人とでは異なる点が少なくない.したがって,このようなわが国独自の糖尿病診療ガイドラインが定期的に刊行されるのは非常に素晴らしいことであり,必要なことでもある.また,改訂のたびに糖尿病の日常診療に即した新情報が盛り込まれた本ガイドラインは,今や糖尿病診療に携わる医療従事者にとって必携の書といえる.ここに,刊行に尽力された先生方の熱意,献身に感謝して,敬意を表する. 前版と比べて,第7版での新しい試みとして特筆すべき点は以下である. ① 従来は合併症のなかで,腎症,神経障害,足病変,大血管症には「(性)」とつけていたが,第7版では括弧がとれて「性」となった(たとえば「糖尿病(性)腎症」は「糖尿病性腎症」となった) ② 従来は「付録」としていた項目が「トピックス」となり,4項目から8項目に増えた.新たに設けられた項目は,「糖尿病と医療IT」「糖尿病とアドボカシー活動」「周術期血糖コントロール」「糖尿病関連検査指標の標準化」である ③ 第13章が従来の「肥満を伴う糖尿病(メタボリックシンドローム)」から「肥満を伴う糖尿病(メタボリックシンドローム,脂肪肝・脂肪肝炎を含む)」に変更となり,新たに脂肪肝・脂肪肝炎が加わった ④ 第19章「高齢者の糖尿病(認知症も含む)」は,前版の羅列的な記述が文章体となったことで読者が内容をより理解しやすくなり,実践的となったのは嬉しい ⑤ 章によってはCQ・Qの増減がみられ,時代に即した内容の変化と充実である とりわけトピックス6「糖尿病とアドボカシー活動」は4頁にわたって取り上げられており,糖尿病の呼称に関する世界の動向も紹介されていて,医師・看護師のみならず日常の診療に携わる人は一読すべき内容である. 本書の序文には「現時点での知見を最大限に盛り込んで作成したこの『糖尿病診療ガイドライン2024』が今日の糖尿病診療の道標となり,わが国での糖尿病診療の向上に貢献することを期待する」としたためられていて,本書を編んだ先生方の意気込みが窺える.“Diabetes:Education to protect tomorrow”(正しい知識が糖尿病から明日を守る)は国際糖尿病連合(IDF)のスローガンの一つである.糖尿病の診療に携わる方々が本書を座右の書として活用され,現況の新しい情報と正しい知識を身につけて,糖尿病に悩む人々とその家族が健常者と変わらない日常生活を送る手助けになればと願うものである. 臨床雑誌内科135巻3号(2025年3月号)より転載 評者●堀田 饒(中部ろうさい病院 名誉院長) 【目次】 ■診療ガイドライン策定の方法論 1章 糖尿病診断の指針 Q1-1 糖尿病の診断をどのように行うか? Q1-2 高血糖状態をどのように判定するか? Q1-3 インスリン分泌低下とインスリン抵抗性増大をどのように評価するか? Q1-4 糖尿病の成因分類をどのように行うか? Q1-5 1型糖尿病をどのように診断するか?(急性,緩徐進行,劇症を含む) Q1-6 遺伝子異常による糖尿病はどのような点に注意して診断するか? Q1-7 遺伝子異常のほかに糖尿病をきたし得る他の疾患,条件にはどのようなものがあるか? Q1-8 糖尿病の病態(病期)分類をどのように行うか? 2章 糖尿病治療の目標と指針 Q2-1 糖尿病治療の目標は? Q2-2 糖尿病の基本的治療方針をどう考えるべきか? Q2-3 血糖コントロールの目標はどう設定すべきか? 3章 食事療法 CQ3-1 糖尿病の血糖コントロールのために食事療法を推奨すべきか? CQ3-2 糖尿病の血糖コントロールのためにエネルギー摂取量の制限を推奨すべきか? CQ3-3 糖尿病の血糖コントロールのために炭水化物制限は有効か? CQ3-4 糖尿病の血糖コントロールのためにカーボカウントは有効か? CQ3-5 糖尿病の血糖コントロールのために低GI食は有効か? CQ3-6 糖尿病の血糖コントロールのために食物繊維摂取は有効か? Q3-7 糖尿病の血糖コントロールのために果物摂取を推奨すべきか? Q3-8 糖尿病の血糖コントロールのために非栄養性甘味料を使用すべきか? 4章 運動療法 CQ4-1 糖尿病の管理に運動療法は有効か? Q4-2 運動療法を開始する前に医学的評価(メディカルチェック)は必要か? Q4-3 具体的な運動療法はどのように行うか? Q4-4 運動療法以外の身体を動かす生活習慣(生活活動)は糖尿病の管理にどう影響するか? 5章 血糖降下薬による治療(インスリンを除く) Q5-1 血糖降下薬の適応はどう考えるべきか? Q5-2 血糖降下薬の選択はどのように行うか? Q5-3 α-グルコシダーゼ阻害薬の特徴は何か? Q5-4 SGLT2阻害薬の特徴は何か? Q5-5 チアゾリジン薬の特徴は何か? Q5-6 ビグアナイド薬の特徴は何か? Q5-7 イメグリミンの特徴は何か? Q5-8 DPP-4阻害薬の特徴は何か? Q5-9 GLP-1受容体作動薬の特徴は何か? Q5-10 GIP/GLP-1受容体作動薬の特徴は何か? Q5-11 スルホニル尿素(SU)薬の特徴は何か? Q5-12 速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)の特徴は何か? Q5-13 血糖降下薬の併用は有効か? Q5-14 血糖降下薬による治療でも血糖コントロールが不十分な場合は,どのように対応するか 6章 インスリンによる治療 Q6-1 インスリン製剤にはどのような種類があるか? Q6-2 インスリン療法の適応とはどのような場合か? Q6-3 インスリン療法の副作用にはどのようなものがあるか? Q6-4 1型糖尿病のインスリン療法にはどのような方法があるか? CQ6-5 1型糖尿病に対する強化インスリン療法は細小血管症の発症・進行抑制に有効か? CQ6-6 1型糖尿病に対する強化インスリン療法は大血管症の発症予防に有効か? Q6-7 2型糖尿病のインスリン療法にはどのような方法があるか? CQ6-8 2型糖尿病に対する強化インスリン療法は細小血管症の発症・進行抑制に有効か? 7章 糖尿病の自己管理教育と治療支援 CQ7-1 組織化された糖尿病自己管理教育と治療支援は糖尿病治療に有効か? CQ7-2 集団教育と個別教育は糖尿病治療に有効か? CQ7-3 血糖自己測定(SMBG)は糖尿病治療に有効か? CQ7-4 CGM(continuous glucose monitoring)はどのような点で糖尿病治療に有効か? Q7-5 糖尿病治療上の心理課題は何か? CQ7-6 心理的・行動科学的アプローチは糖尿病治療に有効か? Q7-7 糖尿病治療にうつ病のスクリーニング・治療は重要か? Q7-8 ガイドラインと実践的マニュアルはどのように活用されるべきか? 8章 糖尿病網膜症 CQ8-1 定期的な眼科受診によって糖尿病網膜症の発症・進行を抑制できるか? CQ8-2 血糖コントロールは糖尿病網膜症の発症・進行抑制に有効か? CQ8-3 血圧コントロールは糖尿病網膜症の発症・進行抑制に有効か? CQ8-4 脂質コントロールは糖尿病網膜症の発症・進行抑制に有効か? Q8-5 血糖・血圧・脂質のコントロール以外の内科的治療によって網膜症の発症・進行を抑制できるか? CQ8-6 網膜症に手術や光凝固などの眼科的治療は有効か? Q8-7 糖尿病網膜症はその他の合併症のリスクファクターとなるか? Q8-8 自動診断によるスクリーニングは有効か? 9章 糖尿病性腎症 Q9-1 尿中アルブミン排泄の増加は腎症における腎機能低下のリスクとなるか? CQ9-2 タンパク質の摂取制限は糖尿病性腎症の進行抑制に有効か? CQ9-3 RAAS阻害薬は腎症の発症・進行抑制に有効か? CQ9-4 SGLT2阻害薬は腎症の進行抑制に有効か? CQ9-5 GLP-1受容体作動薬は腎症の進行抑制に有効か? 10章 糖尿病性神経障害 Q10-1 糖尿病性神経障害をどのように診断するか? Q10-2 糖尿病性神経障害を臨床的にどのように分類するか? Q10-3 糖尿病性神経障害の発症と進行のリスクファクターは何か? CQ10-4 血糖コントロールは糖尿病性神経障害の発症・進行抑制に有効か? Q10-5 感覚神経障害の薬物療法はどのように行うか? Q10-6 自律神経障害の治療はどのように行うか? Q10-7 単神経障害の治療はどのように行うか? Q10-8 糖尿病性神経障害はその他の合併症のリスクファクターとなるか? 11章 糖尿病性足病変 Q11-1 糖尿病性足病変とは何か? CQ11-2 糖尿病患者へ集学的フットケアを行うことは,足病変の発症・進行抑制と重症化予防に有効か? Q11-3 足潰瘍の治療はどのように行うか?
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