仙腸関節の痛み~見逃される腰痛~ 改訂第2版
村上栄一 著
内容
目次
【書評】 本書は,村上栄一先生によって執筆された著書で,仙腸関節の痛みだけでなく仙腸関節障害に関する基礎から臨床まで網羅しています.改訂第2版では,初版の基本的な部分を踏襲しながら,新たな知見を盛り込んだ仙腸関節障害のバイブル的な書籍となっています.腰痛の一因として見過ごされがちな仙腸関節に焦点を当て,正確な診断と治療方法について詳しく述べられています.また,医療関係者や専門家に向けて,仙腸関節の痛みについて理解を深め,その診断と治療のためのガイドとして役立つ内容が詰まっています. 村上先生は,日本仙腸関節研究会の代表幹事であり,長年にわたり仙腸関節に関する研究を続けておられます.本書の中では,仙腸関節に関する基礎知識から始まり,臨床に基づいた治療方法,さらには具体的なケーススタディまでが紹介されています.こうした情報は,仙腸関節に関連する痛みを見逃さず,効果的な治療を行うためにたいへん有益です.本書は第1章から第11章まで構成されており,さまざまな観点から仙腸関節障害について述べられています. 第2章ではさまざまな動物の骨格と人間の比較を行い,人類における腰痛の主役は仙腸関節であると述べられており,第3章では仙腸関節の基礎として進化と解剖について述べられています.解剖では神経支配やバイオメカニクス,骨盤の安定機構について触れ,また仙腸関節の動きを制御する長後仙腸靱帯と仙結節靱帯の役割についても解説されています.第4章では仙腸関節の存在意義として二足歩行のための非常に重要な役割をもっていること,衝撃緩衝機能を担っていることなどが述べられています.立位平衡のkey stationであることや,長時間歩行を可能にしているのは仙腸関節の存在であること,また恥骨結合の重要性についても記載されています.これらの基礎的知識をもとに,第5章では仙腸関節の痛みの病態が記載されています.痛みの発痛源,出現部位,痛みの特徴などが記載され,急性腰痛症の13%が仙腸関節由来であることなどについて,多くの図表を用いることにより具体的で非常にわかりやすい内容になっています.デルマトームに一致しない痛みや下肢のしびれは仙腸関節由来である可能性を念頭におかなければならないことを強調されています.第6章では仙腸関節障害の診断方法について,図を多用し,理解しやすい内容で述べられています.また,鑑別診断についても記載されています.第7章では仙腸関節由来の痛みの治療法について記載され,第8章では仙腸関節ブロックのマニュアルが詳細に書かれています.また,第10章では画像で診断できない腰痛の悲劇として症例を提示され,鑑別診断を行い,適切に診断しなければならないと注意喚起されています.村上先生が自身の臨床経験から得た知識がふんだんに盛り込まれており,治療の現場でただちに役立つ実践的な情報が満載です. 本書の最大の強みは,仙腸関節の基礎から臨床的な治療法に焦点を当てた専門的な内容にあります.腰痛の原因として仙腸関節に関連する痛みは見逃されがちです.しかし,村上先生はこの見過ごされがちな要因に着目し,正確な診断と治療が行われれば,多くの患者の痛みを軽減できることを強調されています.また,本書は単なる理論書ではなく,実際の臨床現場で役立つ具体的な治療方法やケーススタディが豊富に含まれている点も魅力です.仙腸関節障害は医学教育現場において学ぶ機会が少なく,その結果として多くの医師に軽視されている疾患かもしれません. 本書は仙腸関節に関する知識を深め,腰痛治療に携わる専門家にとって非常に有益な書籍になっています.腰痛の治療において,仙腸関節の重要性を再認識するための一冊として,整形外科医,ペインクリニックの医師だけでなく,多くの医療従事者に強く推薦したい書籍です.ぜひお手にとっていただければ,皆様の知識の一助になると思われます. 臨床雑誌整形外科76巻1号(2025年1月号)より転載 評者●(金沢医科大学整形外科教授/日本仙腸関節研究会幹事/Board member of ICSJS(International Conference on Sacroiliac Joint Surgery and Related Research)・兼氏 歩) 【改訂第2版の序】 2012年に『仙腸関節の痛み』を出版して既に10年以上が経過しました.お陰様で第7刷まで発行を重ねることができました.出版当時は仙腸関節に対する認識も浅く,賛否両論がありましたが,この10年間に仙腸関節の真実,重要性が明らかになってきました. 脊椎固定術の前後で仙腸関節が動くことがX線計測から判明し,多椎間固定術後に仙腸関節の痛みが出やすいことが脊椎外科医の中でも認識されてきました.また仙腸関節は動きの少ない関節ですが,実はこの関節の働きなくして直立二足歩行は困難であることがわかってきました.二足歩行するために人の仙腸関節が大きく進化し,上体を支えつつ免震装置として衝撃を緩和し,重心付近に位置して立位平衡の要にもなっています.さらに,ここで歩行の左右切り替えを行って効率的な歩行を生み出しているのです. 人体に不可欠な働きをする仙腸関節なのですが,わずかな動きの関節に常に大きな負荷がかかっているため,容易に関節のズレによる機能障害を生じます.しかし,これまで診断が困難でした.それは,微小な関節の位置異常は画像で検出できないために疑うことが容易でなかったことに加えて,診断の決め手となるブロック注射には,手技が難しい(成功率が低い)関節腔内ブロックが必須とされてきたからです. これに対して,仙腸関節障害は“関節腔内よりも関節後方の靱帯領域に発痛源が多い”ことが本邦の研究で明らかになりました.関節後方靱帯へのブロック注射は腔内ブロックに比べてはるかに手技が簡単で,大多数の発痛源への注射であるため,このブロック法で多くの症例が診断できるようになりました.仙腸関節障害が“診断できない疾患から診断できる疾患”になったともいえます. 本邦の診断手順は国際仙腸関節手術学会(SIMEG)でも取り入れられ,簡便な関節後方靱帯へのブロックを行って,効果の出ない場合に腔内ブロックを追加する流れになってきています.この貢献は日本の研究がこの分野で先頭を走っている証左でもあります. 画像では診断しにくい疾患ですが,仙腸関節の痛みには特徴があり,これを把握すれば医療者でなくても疑うことは比較的容易です.一度仙腸関節の後方靱帯領域(上後腸骨棘付近)にブロック注射をして,劇的に軽快する患者さんを経験すると,一気に腰痛の景色が変わって見えてくるものと確信いたします.2009年に発足した日本仙腸関節研究会を軸に診断と治療法が全国に広がってきていますが,まだまだ道半ばです.やがて,仙腸関節疾患が腰痛治療の常識として,国内どこでも治療が行われる日が来ることを願っています. 2024年4月 村上 栄一 【初版の序】 “MRI やCT 検査で腰には何の異常もない”といわれる.しかし,椅子に座るとすぐ痛くなり,仰向けにすら寝られない.仕事ができず会社も休まざるを得ない.やがて会社の人間関係もギクシャクし,最後の砦であるはずの家族からも“本当に痛いの?”と疑われ,徐々に孤立.出口が見えない状況が続き,最終的にうつ状態に….このような原因不明の腰痛に悩む“腰痛難民”の方々が全国には数多くおられるものと推測されます. 著者が所属する仙台社会保険病院を受診する多くの仙腸関節の痛みの患者さんも,そのような経過をたどった方々です.ブロックの効果から,“あなたの痛みは仙腸関節からくる痛みですよ”と説明すると,それだけで悩みの半分は解決してしまいます.なかには,“どういう治療を希望しますか”と聞くと,“原因がわかればそれだけでいいです”という患者さんもおり,腰痛の原因がわからずに経過した苦悩の日々の重さを感じさせられます. 仙腸関節の痛みは,MRI やCTなどの画像検査で明らかな異常が出ないために,なかなか診断がつかず,精神科や心療内科に紹介される患者さんが多いという悲劇を伴っています.著者は15年前から仙腸関節由来の痛みが腰痛のなかに紛れていることを知り,これまで1,000人を超す仙腸関節の痛みの患者さんを治療してきました.しかし,研究当初はほとんど動かない仙腸関節が痛みを出すとは考えられないとの意見が多数でした.そのようななか,仙腸関節の固定手術を行って社会復帰できた患者さんがいることを発表してから,診断のつかない腰痛のなかに仙腸関節由来の痛みが含まれているのではないかと考える医師が増えてきたように思います.2009 年11 月に日本仙腸関節研究会が発足し,2010年,2011年に開催された2回の学術集会を通して,関心を寄せる医師,医療スタッフが全国的に多くなってきていることを実感いたします. この痛みの存在を知っていただくためには,仙腸関節ブロックの効果を実際に経験していただくことが最も近道と考えます.そのためには,疾患の概念と仙腸関節ブロックの方法を具体的に述べた手引き書が必要と考え,私たちの方法を整理して紹介する書籍を出す決意をしました. 本書は,“離島の診療所でも,本書を片手にブロックができる”というコンセプトのもと,特に診断とブロックの方法を詳細に紹介した,明日からの診療に役立つ実践書を目指しました. 本書が原因を特定できない腰痛で悩む患者さんを治療している医師の方々の仙腸関節の痛みの理解に役立ち,全国の地で仙腸関節ブロックが行われる日が来ることを心から念願しております. 2012年2月 村上 栄一 【目次】 1章 世界が注目する仙腸関節 1.忘れ去られていた仙腸関節 2.欧米に広がる仙腸関節固定術 3.国際仙腸関節手術学会発足 4.『仙腸関節固定デバイス適正使用基準』完成 2章 最も負荷のかかる仙腸関節 1.一般的腰痛分類 2.建物との比較で見える腰痛の原因 3.負荷に晒される仙腸関節 a 体幹と下肢を繋ぐ仙腸関節 b 分離して動く体幹と下肢 c 体内で最も負荷に晒される仙腸関節 d 腰痛の主役は仙腸関節 COLUMN X線登場の衝撃が流れを決めた COLUMN 仙腸関節の研究を行うようになったきっかけ 3章 仙腸関節の基礎(進化と解剖) 1.解剖 a 構造の進化―四足歩行から二足歩行への進化 b 形態解剖 c 仙腸関節の特異性 2.神経支配 3.バイオメカニクス a 仙腸関節の動き b 可動域 c 可動の証明 4.骨盤の安定機構 a 閉鎖位(form closure)と閉鎖力(force closure) b 安定性に重要な2つの筋群―インナーユニットとアウターユニット COLUMN 仙腸関節の動きを制御する長後仙腸靱帯と仙結節靱帯 4章 仙腸関節の存在意義―この関節がなければ人間やっていけません 1.直立二足歩行を可能にした仙腸関節 2.上体を支え,衝撃を緩和する仙腸関節 a 上体を支える b 地面からの衝撃を緩和 3.立位平衡の要・仙腸関節(倒れない) a 脳支配では倒れる b 瞬時の重心修正が姿勢制御に不可欠 c 立位平衡のKey station➡仙腸関節 4.効率的歩行生む仙腸関節(歩行の左右を切り替える) a 左右を連動させる恥骨結合 COLUMN 猿回しのサルは長時間歩行できない COLUMN 衝撃吸収装置に似た動きをする仙腸関節 COLUMN Ligamento-Muscular Reflex 5章 仙腸関節の痛みの病態 1.病態の機序と疫学 a 病態 b 仙腸関節の病態の分類 c 頻度と年齢分布 d 仙腸関節障害(SIJD)と腰椎疾患との合併―sacroiliac-spine syndrome 2.臨床症状 a 疼痛の特徴 b 疼痛発現動作の特徴 3.神経学的所見 4.検査所見 a 画像所見 b 血液検査所見 COLUMN ヘルニアよりも多い仙腸関節由来のぎっくり腰 COLUMN 肘内障―仙腸関節障害は肘内障に似た病態 COLUMN 仙腸関節障害―歩行不足と椅子生活による現代病 COLUMN 機能障害が長く続くと関節腔内炎症となる COLUMN 仙腸関節センターの仙腸関節障害患者の構成 COLUMN 仙腸関節ダム理論 COLUMN 原因不明の鼠径部痛(下腹部痛)が出る仙腸関節障害 COLUMN 下肢症状からの仙腸関節障害と腰部神経根障害の鑑別 ―神経根障害のデルマトームに一致しないしびれや痛みは関節の関連痛を疑え! COLUMN 腸骨硬化性骨炎 COLUMN 画像検査の最近の進歩―骨SPECT/CT 検査 COLUMN 発痛源同定の原則―画像所見に騙されないでください! 6章 仙腸関節の痛みの診断―みつけるのは意外と簡単です! 1.特徴的な疼痛域 2.診察の手順 a 入室時のチェック b 身体所見の確認―立位での診察 c 身体所見の確認―臥位での診察 3.典型例の診断手順 4.診断のための仙腸関節ブロック a 関節腔内ブロックの難しさと低診断率 b 後方靱帯ブロックの登場 c 効率の良いブロック診断手順 d ブロック効果判定の時期とコツ 5.仙腸関節スコア―腰椎疾患との鑑別に有用 6.仙腸関節障害の診断アルゴ
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