著者紹介
エドワード・ブルワー゠リットン(著者):(Edward Bulwer-Lytton, 1803-73)イギリスの小説家、詩人、劇作家、政治家。男爵。ケンブリッジ大学卒業。一八三一年より政界で活躍、植民地大臣まで務めた。社交界小説や犯罪小説、歴史小説、ゴシック小説など、多彩な作風の作品で成功を収めた。代表作は『ぺラム』、『ポンペイ最後の日』。ほかに犯罪小説『ポール・クリフォード』『ユージン・アラム』、歴史小説『リエンツィ』、オカルティズム恐怖小説『ザノーニ』『不思議な物語』『幽霊屋敷』などがある。
田中千惠子(翻訳):首都大学東京大学院(現東京都立大学大学院)人文科学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。英文学・表象文化論。大阪大学大学院文学研究科非常勤講師などを務めた。著書に『「フランケンシュタイン」とヘルメス思想̶――自然魔術・崇高・ゴシック』(水声社)、『イギリス・ロマンティシズムの光と影』(共著、音羽書房鶴見書店)、翻訳に『神智学とアジア――西から来た〈東洋〉』(共著、青弓社)などがある。
内容
ヴェスヴィオ山爆発で壊滅した古代ポンペイを舞台に才色兼備のギリシア人美女をめぐって青年貴族とエジプト人魔術師が対決する。魔術、占星術、魔女、媚薬、イシス女神を駆使し、人間の愛憎、キリスト教の黎明、殺人、剣闘士の死闘などを描く。発掘されたポンペイ遺跡の入念な調査に基づき、当時のローマ文化と風俗、ポンペイの退廃的な文化と生活を精緻かつ流麗に再現。優美な「悲劇詩人の家」や豪奢な「ディオメデスの別荘」での饗宴、公衆浴場での入浴、フォルトゥナ神殿や公共広場、円形闘技場の建築や剣闘士の闘技なども克明に描かれる。小説『ぺラム』で一世を風靡したブルワー゠リットンの織りなす波乱万丈の歴史小説。ヴィクトリア時代にゴシック小説を復活させたブルワー゠リットンは、本作でもゴシック手法を駆使して一大恐怖絵巻をくり広げる。ポーに影響を与え、探偵小説・スリラー小説・ファンタジー・SFの父と呼ばれたブルワー゠リットンのスリルとサスペンスにみちた不朽の名作が待望の完訳でここによみがえる。
本作品は数々の映画化により、世界的に有名な小説となった。だが、ヘンリー・ミラーが『ポンペイ最後の日』を「最も大きな影響を受けた一〇〇冊の本」の一冊に選んでいることからもわかるように、本作は単なる娯楽作品にとどまらず、人間の情熱、愛と死、信仰、人生哲学など、深甚な人間の諸問題をあつかう畢生の大作となっている。
下巻は第四部・第五部を収録、エドワード・ブルワー゠リットンの作家年譜と訳者解説を収録。