グローバル感染症マニュアル 改訂第2版
内容
目次
【書評】 「プライマリケアで使える実践的渡航医学ガイド」 近年,ビジネスや観光などのさまざまな目的での国際交流が加速し,海外渡航は日常的な選択肢となっている.インターネットによる情報収集の容易さや,渡航への心理的ハードルの低下によって,より多くの人々が海外への扉を開くようになった.こうした世界規模での人の往来の活発化に伴い,渡航に関連する健康管理の重要性がいっそう高まっているため,本書の刊行は時宜にかなったものといえる. 本書の特徴は,その実用性とわが国の医療現場に即した内容にある.従来,海外渡航医学に関する専門書は海外の書籍の翻訳か,理論的な解説に重点を置くものが中心であった.しかし,本書は日本人医療者が自身の経験と知見をもとに,わが国の医療現場の実情を踏まえて執筆しているという点で,優れた特色をもつ一冊となっている. 本書の中核をなすのは,トラベルクリニックにおけるプライマリケアの視点である.初版の序文で大曲貴夫先生が指摘したように,海外渡航者の健康管理は必ずしも感染症専門医や渡航医学の専門家だけが担うものではない.むしろ,かかりつけ医として日常的に患者と接する医師こそが,その重要な担い手となる.この認識に基づき,本書は単なる感染症マニュアルではなく,包括的な渡航医学の指南書として構成されている. 第2章の「トラベルクリニックマニュアル」では,渡航先別の具体的な予防・対策が詳述されている.とくに,ペルー・ボリビア,サファリ,北インドといった人気の観光地に特化したパートは,実臨床ですぐに活用できるであろう.ワクチンに関する記載も充実しており,日常診療での実践的な指針として活用できる.また,感染症対策はもとより,高山病への対応や妊婦・授乳婦の渡航医療など,幅広いテーマを実践的に解説している点も特筆に値する. 本書は単に感染症予防に留まらず,海外渡航に伴う健康リスク全般をカバーする総合的な医学書としての性格をもつ.これは国際交流が日常となった現代社会において,医療者がもつべき視点を適切に示すものといえよう. 本書は日本人医療者による,わが国の医療現場に根ざした渡航医学の実践書として,感染症専門医はもちろんのこと,プライマリケアに携わる医療者にとって,信頼できる手引きとなるだろう.海外渡航者の診療に関わる可能性のある医療従事者には,日常診療の実践的な参考書として手元に置くことをお勧めしたい. 臨床雑誌内科135巻6号(20256月号)より転載 評者●笠原 敬(奈良県立医科大学感染症内科学講座 教授) 【序文】 新型コロナウイルス感染症によるパンデミックでわれわれが学んだことは,世界のどこかで起こった感染症が,またたく間に世界中に広がり,しかも社会全体の機能に重大な影響を及ぼすことが,現実に起こったということです.多くの医療従事者にとって,海外からもたらされる感染症に対応することは,日常的にはまずないことで,他人事という意識があったであろうと思います.しかし,もうそのような時代ではなくなりました.われわれは,世界からもたらされる感染症に,平時から備えておく必要があります. 一方で,海外からもたらされる感染症を経験する頻度は一般的には低く,経験をつみながら学んでいくということは現実には困難です.これは世界的にも同じで,どの国でも,海外からもたらされる感染症の種類や頻度にはかなり差があるため,世界中のすべての感染症をすべて実際の診療のなかで経験して,診療の能力を高めていくなどということは不可能なのです. ならばどうすべきか? まず必要なことは,独立した医師としての責任をもって患者を診ることのできる根本的な能力をつけることです.現在の日本の制度でいえば,初期研修から後期研修にむけての一連の修練で,その最低限の力がぎりぎり身につくかどうかであるといえるでしょう.そのうえで,特定の領域の修練をする必要があります.その場合に大前提のこととして,教科書におさえられている内容はきちんと整序した形式で頭におさめておく必要があります.もちろん,自分が診たこともない感染症のことも頭に入れておかねばなりません.そして整序された形式で頭に知識が入っていれば,医師としての根本的な実力を土台としながら,頭におさめられた知識を活用して診療を行うことができるようになるのです.ここではよい教科書が必要です. 海外からもたらされる感染症,これを私たちは本書でグローバル感染症と呼んでいますが,日本では教科書の役割を果たせる書籍は少ないです.そこで書かれたのが本書です. 本書を手にとった皆さんは,まずこの前書きを読み,次に目次を読んで,この本がどのような内容を扱っているのかの全体像を把握するようにしてください.そして,そのうえで各項目を,全体を読んでください.各項目ではどのような点が重要であるのかを,頭で整理しながらそして実際に書き出しながら読むことをすすめます.そして実際にこのなかに記載された感染症の患者を診たら,あらためて本書の当該項目を読んでください.そうすれば自分の理解が深まり,最初に読んだときには字面だけ見ていわば読み落としてしまった内容がまさに目にとびこんできて,わかったという実感が得られるようになるでしょう.その病気に対する自分の頭のなかの像がより明確になり,次にはそのより明確になった像をもって患者にのぞむことができるようになっていくでしょう.実はこれは私自身が先達に教わり,当科で教えている「学び方」でもあります. 2024 年11 月 編集責任者代表 大曲貴夫 【目次】 グローバル感染症流行地・リスク地マップ集 Ⅰ章 グローバル感染症診療の実践 A 総論:グローバル感染症診療について留意する点 B 発熱 1 発熱患者へのアプローチ 2 マラリア 3 デング熱 4 チクングニア熱・ジカウイルス感染症 5 腸チフス・パラチフス 6 レプトスピラ症 7 リケッチア症 8 ライム病とその他のダニ媒介性感染症 9 急性肝炎(A型肝炎,E型肝炎) 10 Q熱・バルトネラ症・ブルセラ症 11 鼻疽および類鼻疽 DTMHで学べること C 下痢 1 下痢症へのアプローチ 2 急性下痢症 3 慢性下痢症 4 赤痢アメーバ D 皮疹 1 皮疹・発熱のある患者へのアプローチ 2 エムポックス 3 代表的な熱帯皮膚感染症 E 呼吸器症状 1 呼吸器症状へのアプローチ 2 新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 3 中東呼吸器症候群(MERS) F 好酸球増多症 1 好酸球増多症へのアプローチ 2 住血吸虫症 3 その他の主な寄生虫感染症①(吸虫・線虫) 4 その他の主な寄生虫感染症②(条虫) G 性感染症(STI) H 動物咬傷 1 動物咬傷のマネージメント 2 破傷風 3 狂犬病(曝露後予防を含む) I 特殊な感染症 1 ウイルス性出血熱 2 渡航者の真菌感染症 3 その他のまれな輸入原虫感染症(トリパノソーマ症,リーシュマニア症など) 教授のぼやき J 医療機関における海外からの薬剤耐性菌の持ち込み対策 数理モデルとは何か? Ⅱ章 トラベルクリニックマニュアル A 基本的な考え方 B 渡航先別の予防・対策 1 東南アジア・東アジア(中国,台湾,韓国など) 2 南アジア 3 中東 4 アフリカ 5 ヨーロッパ 6 パシフィックアイランズ(オセアニア) 7 ラテンアメリカ C 相談の多い有名な渡航地・観光地 1 南アメリカ 1-1 ペルー・ボリビア 1-2 ブラジル 2 アフリカ 2-1 サファリ(ケニア,タンザニア) 2-2 キリマンジャロ 2-3 南部アフリカ 3 東南アジア 4 北インド(デリー,アグラ,バラナシ,コルカタ) D 渡航者へのワクチン接種 1 渡航者へのワクチン接種概論 2 未承認ワクチンについて 3 小児への渡航前ワクチン接種 4 アナフィラキシーへの対応 国境なき医師団に参加してみた E 各種ワクチンを押さえる 1 国際保健規則によって定められるワクチン(黄熱ワクチン) 2 予防接種法によって定められる(定期接種)ワクチン 2-1 破傷風トキソイド(ジフテリア,百日咳を含む) 2-2 ポリオワクチン 2-3 日本脳炎ワクチン 2-4 麻疹,ムンブス,風疹,水痘ワクチン 3 その他のワクチン(任意接種ワクチン) 3-1 A型肝炎ワクチン 3-2 B型肝炎ワクチン 3-3 狂犬病ワクチン 3-4 髄膜炎菌ワクチン 3-5 腸チフスワクチン 非処方抗菌薬とAMR F 渡航前健康診断 G マラリア予防内服 H 防蚊対策 青年海外協力隊いってきました I 高山病の予防・対処 International SOSと青年海外協力隊における経験 J 旅行者下痢症の対策 K 妊婦・授乳婦の渡航 IDES(感染症危機管理専門家養成プログラム)の経験から Ⅲ章 グローバル感染症診療に役立つ!情報のまとめ A 移民・難民に対する診療 B 海外からの転送・受け入れ C 迅速診断検査の使い方 Gaviってなに? D 感染症法・IHR届出疾患のまとめ WHO協力センターの取り組み E 渡航地域ごとの推奨トラベラーズワクチンのまとめ F 関連する資格について G 役立つウェブサイトのまとめ 熱帯病治療薬研究班 H 特殊な感染症が疑われる場合の検査機関一覧 臨床現場でのFETP-Jの活かし方
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