内容
本書は,著者がこれまでに学んできた経験の中から,これから可換環論を学ぼうとする読者に「可換環論では、ここが勘どころだ!」と思うところを伝えるために書かれている。 可換環論を学ぶにあたっては,M. F. Atiyah and I. G. Macdonald, “Introduction to commutative algebra”, Addison-Wesley Publishing Company, 1969. が定番かつ重要な本であり,可換環論にはここから入るべきなのであるが,homology代数の知識,Cohen-Macaulay環やGorenstein環あるいは正準加群の理論の基本という,かなり深く広い谷間が幾つも横たわる。学部4年次・大学院M1のセミナー教材としては適当かもしれないが、この本に取り掛かるまでに遭遇するかなり高い障壁を乗り越えさせてくれる案内役がいない。本書の目的はその役割を担うことにある。 本書は、主に学部3・4年次で可換環論の基本を学ぶための入門書を意識している。無闇に高級な議論は避け,常に到達目標を明確にしながら要点を絞って述べた。高校までに学ぶであろう内容にも証明を付けるなど,可換環論を発展的に学ぶために丁寧な解説を加えている。 前半はイデアル論の視点からの勘どころを述べ,発展部分として加群論を解説する。間にhomology代数の基本を挟み,後半は正則局所環の局所化に関するJ.-P. Serreの定理を目標に,可換環論の勘どころを纏めている。初めて可換環論を学ぶ方にも最良の入門書である。