内容
人間が進化の過程で発達させてきた能力には,複雑で連続的なパターンを処理したり,認知を抽象的に制御したりする能力がある。これらの能力を運用する人間の認知システムは,さまざまな脳領野に関連付けられた,独立したモジュールによって構成されていることが明らかにされている。
本書では,認知心理学の記憶研究で扱われてきた宣言的モジュールと手続き的モジュールをはじめ,視覚・運動系の複数のモジュールがどのように組み合わされ統合されるのかについて,Adaptive Control of Thought-Rational(ACT-R)理論を用いて説明する。本書では,どのようにして人間が車を運転したり,子どもが代数学の方程式を解いたりできるのかを,この理論を用いて明瞭に解説する。ACT-Rは,認知科学が発足して以来,最も古くから完成度の高い認知モデルとして世界中で支持されている。ACT-Rでは,なじみのある知識表現である,チャンクやプロダクションルールといったアルゴリズムを用いて,人間の学習がどのように生じるのかをみることができる。ACT-Rは,人間の心(認知)のプロセスをコンピュータ上で表現(シミュレーション)するだけではなく,神経科学的なエビデンスに基づいて,人間の脳の「構造」と「機能」についても教えてくれる。
著者のJohn Andersonは,このACT-R理論を用いた膨大な研究により数多くの名誉ある賞を受賞してきた。米国心理学会の著名なDistinguished Scientific Career Award,米国認知科学学会からは,人間の認知過程を形式的に理解することへの貢献を称えてDavid E Rumelhart賞,および Heineken賞を含む数々の賞を受賞している。また,米国認知科学会の会長やAmerican Psychological Associationから米国科学アカデミー,全米科学アカデミー,米国哲学協会などにも選出。この1冊は,これまでの彼の膨大で奥深い研究のレガシーを扱っており,未来の認知科学の姿や心のメカニズムを探求していくうえでの,究極の科学の問いを扱っている。本書は認知科学のメイントピックを扱う,認知モデリングに関するバイブルである。
[原著:How Can the Human Mind Occur in the Physical Universe?, 2009]