内容
生命は細胞から生態系にまで及ぶスケールで、外界と様々に相互作用しながら生存している。今日見られる全ての生物システムは、進化の結果生じてきた。進化は様々な要素が相互作用しながら発展する動的なプロセスであり、そのダイナミクスを生み出す仕組みを知ることが進化の関わる現象を理解することになる。数学は関係性を記述して構造を理解する特質をもつ。微分方程式や確率過程によって進化の動的なプロセスを表現し、現象の本質を理解することが可能である。
本書は Martin A. Nowak の著書 "Evolutionary Dynamics"-exploring the equations of life-の日本語訳本である。著者はこれまでにエイズの根源であるHIV感染症や癌、そして言語に至るまで、進化のダイナミクス研究を通して多くの謎を解き明かしてきた。生物進化を理論的に研究するためによく用いられる進化ゲーム理論も、著者によって数多くの新しい研究の方向性が開拓されてきた。これら研究の最前線にあるトピックが、その第一人者でもある著者によって1冊の本に内包されている。このような刺激的な研究を多くの人々に伝えるよう、翻訳本を出版するに至った。
まずは自然淘汰と突然変異を記述する進化の微分方程式から始まり、確率過程を用いた進化ゲーム理論の最新トピックに移る。最後にウィルス感染、発癌機構、言語など現実社会と密接に関係した問題に取り組み、進化のダイナミクスから現象の本質を理解出来るようになっている。