豊かさとは何か(岩波新書)
暉峻 淑子 著
目次
一 金持ちの国・日本 カネとモノがあふれる国/第三世界の姿は四十年前の日本/豊かさに夢中になった日本人/表面だけの豊かさ──余裕と思いやりの喪失/時間を奪いとられた生活/豊かさへの道を踏みまちがえた日本 二 西ドイツから日本を見る 資本主義国の中でも特殊な日本/もはやいいわけは通用しない/空港から落ちついた美しい町へ/森や木や動物と共にゆったりと生きる人びと/問題意識が豊かな学生たち/生活基盤の充実が豊かさを保障/個性的で、のびのびとした教育/自己責任の前に社会的責任/生徒も教師も自由/見守るが強制はしない──「非行」少年少女の教育/一人ひとりを家庭的に教える──特別クラス/個室制で活気ある老人ホーム/ゆきとどいた在宅看護とホーム・ヘルプ/安くて高水準で個性的な住宅/土地の私権にはきびしい制限/四万以上の自助グループが活躍/心配のない、老人たちの生活/安い交通費──社会的共通資本の威力/金持ちで貧乏な国──西ドイツから見た日本/他国を知ることは自国を知ること 三 豊かなのか貧しいのか 日本の「豊かさ」への疑問/「豊かさ」って何だろう──女たちの生活実感/高校生たちの疑問と不安/動物や植物とともに命を大切にして生きる──地球的豊かさ/地球的豊かさ感と物量的豊かさ感への分裂/豊かさへの疑問と、ガルブレイスの『ゆたかな社会』/市場経済信仰から所得の再分配へ/かきたてられる欲望から自主的に決定される欲望へ/豊かな社会とは?──ガルブレイスの結論/個人生活の側から豊かさを測る──生活水準論/貧困調査から始まった生計調査/日本の生計調査の曙/多角的な視点をもつ現代の生活水準論 四 ゆとりをいけにえにした豊かさ ゆとりを生み出すもの──社会保障と自由時間/労働時間も通勤時間も長い日本/全国建設関連労協の「健康と生活に関する調査」/残業・休日出勤・徹夜勤務/有給休暇・忙しさ・イライラ・やりがい/残業の影響がとくに大きい睡眠と食事/帰宅時刻と就寝時刻/人間らしい生活をするには残業は月十時間が限度/精神的一体感の喪失──危機感を抱く妻たち/回復困難な疲労、常用される薬/拒否しにくい残業/本人と家族は残業をどう考えているのか/すべての産業に共通する労働実態/人間の本性に反する夜勤・深夜労働/拡がるストレス性疾患と過労死/何よりも合理化と効率化を優先する国/「八時間労働」の真の意味/時間短縮を伴わない男女雇用平等は差別を生む/ストレスにさらされる母性/機械化によって貧しくなった労働/時間短縮が「労働のあり方」を変えていく第一歩 五 貧しい労働の果実 労働者の暮らしはどうなっているのか──総務庁の家計調査から/ひろがる新しい貧富の格差/日本人の貯蓄好き──それも土地暴騰の一因/住宅は生活の容れもの/「個人の自己責任」──ないに等しい日本の住宅政策/「住宅は人格の一部」──住宅に手厚い助成のある国の考え方/持てる者と持たざる者との格差/全国に波及する地価の騰貴/可処分所得を上回る住宅ローンの返済額──東京のクレージーな現象/都市住宅を自分たちの手で──コープ住宅の運動/カネの豊かさが住の豊かさを亡ぼした/個人の自由を支えるもの──共同体的な土台/経済の活力か人間の活力か/弱者をも抱えこむ「共存の原則」/社会保障を削減してきた日本の保守政治/大幅に切り下げられた年金と老人医療費/介護に疲れる家族、介護の手を抜く老人ホーム/貧しい人を見殺しにする国民健康保険/ますますきびしくなる生活保護の受給制限/同情心や社会的公正感を葬り去ることはできない 六 豊かさとは何か 共通の生活基盤を充実させる/二つの自然を統一して生きる/労働時間を短縮し、労働のあり方を変える/本当の豊かさへの転換に向けて あとがき